アトキンソンの【「デフレだから生産性向上は無理」という勘違い】

D. アトキンソン批判のレベルが低すぎて逆効果になっている。

先日の記事(下請けで苦しむ中小企業は「5%未満」の現実)に、次のようなコメントがありました。
「生産性が高まらないのは、日本が30年もデフレで、企業が投資できないからです」
しかし、日本のデータで検証すれば、この理屈には違和感しか湧きません。特に、「1990年代以降の日本の生産性が上がっていないのはデフレが原因だ」というのは明らかに間違いです。

生産性向上に関係する機械・設備とコンピュータソフトウェアへの投資はバブル期と1997年度前後の二つのピークを超えていない。

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しかし、「デフレ→設備投資できない→生産性が上がらない」という因果関係は根拠を欠いている。消費者物価指数の下落率は平均で年0.4%に過ぎず、4年間で約30%下落したアメリカの大恐慌のような状況ではない。そもそも、デフレは30年も続いていない(その半分未満)。

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借入金利も低下したので実質金利が大幅に上昇したわけではない。「デフレだから」説では、インフレに反転して実質金利がほぼゼロに低下した2013年以降を説明できない。

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企業の設備投資の判断には

①需要の見通し
②ハードルレート
③資本コスト
④労賃との比較

等が関係するが、国内需要は人口減少のために量的には先細りの可能性が大なので、慢性的な投資抑制要因となっている。そのため、投資促進にはハードルレートと資本コストの引き下げが必要になるが、構造改革はその逆を目指すものだった。

2000年頃までは実質経済成長率と法人企業のROAは似た推移をしているが、21世紀になるとdecouplingが生じている。

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潜在成長率が低下した経済で企業に高度成長期並みの資本効率・利益率を求めれば、資本から低賃金労働へのシフトと生産・投資の海外シフトが進む。これがデフレとディスインフレの主因であり、デフレだから設備投資ができないのではない。アトキンソンの「明らかに間違いです」は正しい。

アトキンソン批判のレベルがあまりにも低いために、逆にアトキンソンの信頼度が上がってしまうのは困りものである。

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