N.ファーガソンのハンティントン曲解

博識ではあるが分析の鋭さを全く感じさせず、なぜこの人が「現代の知性」扱いされるのか不思議なニーアル・ファーガソンが、ウクライナ問題について故サミュエル・ハンティントンが誤っていたかのように述べている。

私はサミュエル・ハンチントンとは懇意な間柄でしたが、彼の唱える「文明の衝突」論に同意できたためしは一度もありません。彼が存命だったら、私はこう尋ねたいです。
「サム、どうか教えてほしい。どう考えれば、ウクライナでの戦争を文明の衝突ととらえられるのかい?」
文明論で見れば、ロシアとウクライナを分けるのはきわめて難しいからです。冷戦終結後に勃発した戦争の大半は、同じ文明圏内で起きています。異なる文明の間で起きている戦争は少ないのです。

ハンティントンは1996年の『文明の衝突』で

ウクライナは異なる二つの文化からなる分裂国だ。西欧文明と東方正教会系の文明をへだてる断層線がウクライナの中心部を走っており、しかもその状態は何世紀もつづいている。

p.250

と踏まえた上で、第一の可能性として

重要なのが文明であるなら、ウクライナ人とロシア人とのあいだに武力衝突が起こるとは考えられない。

p.252

と書いてはいたが、それよりも可能性が高いシナリオも二つ示していた。現状が二つ目のシナリオに近いことは明らかだろう。

二つ目の、もっと実現の可能性のある道は、ウクライナが断層線にそって分裂し、二つの独立した存在となって東側がロシアに吸収されるというものだ。

p.252

そのような東方帰一教会の下部組織でありながら西欧寄りであるウクライナが存続できるのは、強力かつ効果的な西欧の支援がある場合だけだ。そして、西欧がそのような支援をするのは、西欧とロシアとの関係が極度に悪化し、冷戦時代に似た状況になった場合にかぎられると思われる。

p.253

三つ目のさらに可能性の高いシナリオは、ウクライナが統一を保ち、分裂国でありつづけ、独立を維持し、おおむねロシアと緊密に協力しあうというものだ。

p.253

ロシア(プーチン)が望んでいたのが三つ目のシナリオだったことも明らかだが、そうならず、軍事介入による分裂になりそうなのは、西側(Collective West)、米英がウクライナ西部の過激ナショナリストを煽動したことに原因がある。断層がずれ動いたのはハンティントンの想定外の「人工地震」のためなので、予測が間違っていたとする評価は不当である。

ウクライナは西側の代理戦争をやって(やらされて)いるわけであり、ロシアと西側の対立の根底には「文明の衝突」があるのだから、ハンティントンは決して間違っていなかったのである。

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