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明石市長が有能で「結果を出している」ように見える理由

結論から言えば、市長に就任した2011年5月が絶妙のタイミングだった――全国的な景気回復と明石駅周辺再開発の成果が泉市長の政治的手腕によるもののように見える――ためで、本人も「時の運」を自分の手柄のように喧伝している(運も実力のうち?)。

全国的な景気回復

2011年に市長になった頃はかなりしんどかった。明石市は人口減少が始まっていて、財政は赤字。駅前も廃れ始めていた。
就任3年目の2013年から何とか人口が増え始めて、税収もV字回復させたが、それでもダメなんですわ。

「2011年に市長になった頃は」世界大不況~東日本大震災直後の日本経済の最悪期だったが、「就任3年目の2013年から」急速な景気回復が始まったために、「泉市長が就任→景気が良くなる」の時間的前後関係が「泉市長の子ども施策→明石市の景気が良くなった」の因果関係と誤認された(前後即因果の誤謬)。人口減少が始まっていたように見えたのも、不況の影響で転入が急減したためである。

内閣府
橙色のマーカーは2011年4-6月期

市税収入や積立基金残高が増えたのは事実だが、その増加率は日本全体と大差ないので、「V字回復」の主因は子ども施策ではなく全国的な景気回復だったことになる。

総務省,明石市|市町村計は東京都の徴収分を含む
財務省
総務省,明石市
2018年度の急増はJT跡地売払収入に伴うもの(約29億円)
総務省

明石市中心市街地活性化基本計画

更に泉市長への追い風になったのが、明石市中心市街地活性化基本計画の進展である。

明石市は泉市長就任前の2010年11月30日に内閣総理大臣の認定を受けた中心市街地活性化基本計画(1期:2010~2015年度、2期:2016~2020年度)を、国の支援を受けながら進めてきた。その経緯と内容については内閣官房・内閣府「地方創生」の資料👇が参考になる。

https://www.chisou.go.jp/tiiki/chukatu/pdf_nintei/102.pdf

○明石海峡大橋開通(平成10年)以降、フェリー利用者の激減とともに、港に近い商店街利用者も減少。
○駅前大型店舗撤退による商業機能の低下。

■明石駅前南地区の再開発事業を核に、市民や観光客へのサービスを改善し、便利で満足できる中心市街地をつくる。
⇒主要事業:①明石駅前南地区第一種市街地再開発事業、②明石駅前広場再整備事業、など
■回遊環境を整え、地域資源を活かしたあらゆる施策を位置づけ、快適で楽しい中心市街地をつくる。
⇒主要事業:③国道2号立体横断歩行者整備、④旬感!明石海峡グルメ道楽、など

「駅前大型店舗撤退」とは2005年8月末のダイエー閉店のことで、その跡地に明石駅前南地区第一種市街地再開発事業(2011~2016年度)の一環で建設されたのがパピオスあかしである。2016年12月のパピオスあかし開業によって「風向きが一気に変わった」ことは泉市長も認めている。

風向きが一気に変わったのは、2016年に駅前ビルの全面リニューアルをしてから。人が集まって街がにぎわった。

泉市長は「人が集まって街がにぎわった」のはパピオスあかしに子供関連の公共施設を入れたためだと説明しているが、確かに計画変更がプラスに働いた可能性はあるものの、再開発ビル建設を核としたハード面の整備の貢献は無視できない。ハードがなければソフトの子ども施策は十分に働かない。

2016年12月にオープンした明石駅に面した複合施設「パピオスあかし」も、泉市政の象徴的な存在と言える。飲食店や大型書店、クリニックやヘアサロンといった民間施設とともに、「あかし子育てひろば」、市立図書館や市民広場、行政サービスの総合窓口など公共施設を新設。駅前からにぎわいが広がった。

他の地方都市のように、明石駅前の再開発でも、構想段階では市役所の半分が入居し、そのほかはゲームセンターやパチンコ店、消費者金融などが入居することになっていた。この計画を白紙にし、市民図書館や親子交流スペースなどの設置を実現したのが就任直後の泉氏だった。

泉市長の実績とされる経済効果や「まちの好循環」は主として全国的な景気拡大と中心市街地活性化基本計画の奏功に依るもので、子ども施策は効果があったとしても多少の上乗せ程度だったと言えそうである。

国土交通省「地価公示」

人口増加

子ども施策の成果と(唯一?)確実に言えるのが人口増だが、泉市長は就任した2011年頃の「減少」を大袈裟に表現していることには留意。

明石市|各年10月1日現在
非連続は推計元の国勢調査人口の切り替えによる
明石市
明石市より作成

自然増減は死亡の増加のためにマイナスが定着しているが、出生は全国的に減少する中、出産意思のある人たちの転入増の結果として維持できているので、マイナス幅を縮めていると評価できる。

明石市

泉市長の「就任3年目の2013年から何とか人口が増え始めて」は社会増減が2013年からプラスを続けていることによる。

明石市

隣接する神戸市垂水区と西区などからの転入増加が主因で、その相当数が子育て支援目当てだと推定される。

社会増減には景気や再開発事業の影響もある。例えば、2010~2012年のマイナスは不況の影響による転入の減少、2017年と2018年の大幅なプラスには2016年度に完了した明石駅前南地区第一種市街地再開発事業が寄与していることが地区別の統計から読み取れる(明石駅周辺は本庁地区)。

明石市

まとめ

三重苦がひっくり返った主因のうち、子ども施策は一つだけ。

  • 人口減少→子ども施策目当ての転入増加

  • 財政赤字→全国的な景気拡大に伴う税収増加

  • 駅前衰退→再開発事業の奏功

私が市長になった11年半前の明石市と言うのは三重苦で、「人口の減少」「税収の赤字」「駅前は衰退状況」。 
この3つが、この12年で全部ひっくり返っているんです。 

児童福祉費倍増→転入増→人口増、つまりはかねで住民を集めたことが「有能」の証になるのかについては人によって判断が分かれると思われるが、誇大宣伝の巧みさという点では間違いなく有能である。

結論:泉市長の子ども施策の波及効果は著しく過大評価されている。メディアや学者が泉市長の誇大宣伝を鵜呑みにしてお墨付きを与えているところに問題がある。

付録

この対談👇から、泉市政の本質が「土建関連の公共事業を削って子育て支援(5つの無料化など)に回す”やりくり"」であることが分かる。

子ども政策の予算倍額を打ち出すと、すぐに人気取りのバラマキだと勘違いされるのですが、明石市の場合は違います。もちろん、子ども政策を実施する前提として減らせる予算は減らしています。例えば道路予算は半分にしました。明石市は面積が小さいので、デコボコになってしまった道路の補修工事はするけれど、必要以上の無理なことはしません。下水道整備も、ゲリラ豪雨による床上浸水の可能性を総合的に判断し、20年間で600億円の予算を150億円、四分の一に減らしました。そういったやりくりの上に、子ども政策を打ち出しています。

『中央公論』2019年2月号
総務省

これ👇も現地事情を知らないと騙される。

子ども政策はプラスの外部効果も生んでいます。[中略]今、明石市の商店街は非常に活気づいている。駅前商店街は、歩行者通行量が15年度からの2年間に4割も増えた。新店舗も増え、17年度は24の新規店ができました。きっと子育て世代の家庭は、外食したかったのだけれど、教育や医療にお金がかかるから控えていたのでしょう。行政サービスで少し余裕ができて、お金を使うことができるようになったのです。

『中央公論』2019年2月号

2015→2017年度に明石駅前商店街の歩行者通行量が増えた主因は、2016年度に明石駅前南地区第一種市街地再開発事業が完了したことである(パピオスあかし開業は2016年12月)。

風向きが一気に変わったのは、2016年に駅前ビルの全面リニューアルをしてから。人が集まって街がにぎわった。

『東洋経済』から泉市長の発言を再掲

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