永久債で考える国債発行の限度
国債発行が限界に近づいているとの懸念が一部で高まっているが、そうではないことは永久債(変動金利)で借りるとすれば理解しやすくなる。
財政危機が発生した場合は、外国為替市場で円の急落を招く懸念があると指摘。
中央銀行による国債の買い支えなど、主要先進国の常識から外れる政策を採用すれば「円の信認が問題になりかねない」と説明。
全ては為替市場次第と言って良いでしょう。どんなに無茶苦茶な財政支出をしてもたいして円安が進行しなければ、いつまでも財政支出をし続けることができます。しかし、ひとたび為替市場の信頼を失い、円が暴落すれば終わりです。
永久債は元本が償還されずに利子が払われ続ける債券なので、発行するための条件(⇔買い手がつく条件)には、
①発行体の存続
がまず必要になる。もちろん、真の「永久」はあり得ないが、買い手の投資のタイムホライズンよりも長く存続すると信じられていれば十分である。日本国政府はこの条件をクリアしていると考えられる(政府が消滅する前に買い手が消滅している可能性が高い)。
次の条件が、
②利払費を収入(借入を除く)で十分にカバーできる
である。収入の大半が利払いに充てられてその他の支出がままならないようでは利払いが滞る(デフォルトする)リスクが無視できなくなるので、買い手がつかず、発行は難しくなる。
2019年度の利払費は税収の1/8に抑えられているので、現時点ではこの条件もクリアしているとみなせる。
さらに次の条件が、
③価格暴落(⇔金利暴騰)のリスクが小さい
ことである。有期債は満期になれば元本で償還されるが、永久債で元本分を回収するためには途中売却することになる。その際に価格が暴落しているリスクが大きいと予想されれば、発行価格も大幅に引き下げなければ買い手はつかなくなる。
債券価格の暴落は金利の暴騰を意味するが、信用リスクを無視できる債券の金利を上昇させるのは経済の名目成長率の大幅上昇なので、事実上インフレ率の暴騰になる。財政赤字による支出の増加が需要超過→インフレ加速につながると予想される状況では、財政収支を均衡・黒字に向かわせる必要が生じる。
経済がすでにフルスピードで走っているところに政府がさらに支出を増やそうとすれば、インフレが加速する。制約はたしかにある。しかしそれは政府の支出能力や財政赤字ではない。インフレ圧力と実体経済の資源だ。
国債金利は日本銀行の量的緩和・マイナス金利・yield curve controlによって引き下げられているが、それ以前から銀行や機関投資家の旺盛な需要によって過去最低水準に低下していた。日銀が国債を買い支えているわけではないので、日銀が国債の大量買入れを止めたとしても、国債価格の暴落にはつながらない。
実体経済においても、物価が暴騰する兆しは全く見られない。
以上の考察からは、財政の持続可能性はストックではなくフローによって決まることが分かる。国債残高そのものではなく、平均利率との積の利払費とインフレ率が問題ということである。
現在の日本では、利払費とインフレ率はアンダーコントロールなので、財政は破綻寸前とは言えない。従って、経済の総需要の縮小につながる財政赤字の縮小を急ぐ必要は全くない。
付録
現行制度とは異なるが、政府が通貨発行によって支出を賄っているとすれば、その限界がはっきりする。
ゲーテの『ファウスト』の第二部で、債権者や軍隊に支払う金が不足した皇帝に対し、悪魔は紙幣の発行を提案する。このとき担保になるものはなかったが、あとから金を掘り起こせばよいと言って悪魔は皇帝を説得した。
当初、紙幣は莫大な富を生み出した。皇帝は債権者にも軍隊にも支払いを済ませ、仕立屋でさえ商売が繁盛する。しかし結局、この富は束の間のもので、国庫の状態は悪化していく。深刻なインフレが社会不安を引き起こし、皇帝は厄介な立場に追い込まれる。
民間部門に通貨を受け取らせるための条件は、
◆政府の存続(①と同じ)
◆通貨価値の安定(③と同じ)
になる。インフレによる購買力の減少分を利息で補填するのが国債なので、現行制度でも、①と③と②の条件をクリアしていれば、財政は破綻寸前ではないことになる。
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