消費税の影響について統計で嘘をつく京大教授

財務省の緊縮財政路線に反対する論客の一人が「京都学派」の藤井聡だが、

新たな警戒対象として財務省が意識するグループもある。「京都学派」。京大教授で安倍ブレーンの内閣官房参与を務めた藤井聡と、京都選出の西田昌司自民党参院議員を、予算編成を担う主計局ではこう呼ぶ。

その主張が「嘘・大げさ・紛らわしい」だらけであることをこの記事から検証する。

下のグラフをご覧頂きたい。
これは1世帯あたりの消費支出額の推移を示したものである(総務省発表資料より、各年一月分のデータに基づき藤井氏作成)。14年の消費増税により、わずか3年で約9%もの消費が落ち込んでいることがわかる。このような状況で消費税10%にして消費をさらに冷え込ませれば、日本経済に破壊的な打撃をもたらすのは火を見るより明らかということだ。

総務省「家計調査」から、原数値(年次)と藤井の作成方法に基づいたものを比較したものが下のグラフだが、大きな差異があることが見て取れる。原数値では2014年→2017年の減少率は3%で、藤井の「9%」の1/3に過ぎない。

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この差異は、藤井が各年1月の消費支出額を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く)で実質化して12倍したものを年間の消費支出であるかのように示していることから生じている。当然だが、このように単月の「瞬間風速」を12倍したものを年次のデータのように見せかけることは適切ではない。

月次の季節調整値を見ると、2014年1月は上振れ、2017年1月は下振れしているが、藤井が減少率を大きく見せるために2018年や2019年ではなく2017年を選んだ可能性が強く疑われる。グラフの赤マーカーは各年1月を示す。

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二人以上の世帯の平均人員は長期的に減少傾向にあるので、1人当たりの消費支出で見ると、名目ベースでの大きな落ち込みは消費税率引き上げから約1年半後に生じていたことが明確になる。グラフの赤マーカーは2008年9月(リーマンショック)、2009年9月(鳩山政権発足)、2011年3月(東日本大震災)、2012年12月(第二次安倍政権発足)、2014年4月(消費税率5%→8%)である。

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一方、実質ベースでは消費税率引き上げ後の落ち込みは大きく、現時点でも回復していない。

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消費者物価が第二次安倍政権発足時(赤マーカー)から約7%も上昇したためである。

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家計消費は名目ベースでは消費税率引き上げ後も緩やかに増加しているが、物価の上昇がそれを上回っているため、家計部門が軽度のスタグフレーションに陥っている、というのが実態に近い表現と言えよう。

2ページ目では内閣府のGDP統計から

消費増税を繰り返す度、「実質消費」の伸びが鈍化した

と主張しているが、これも誤った因果関係へと誘導する紛らわしい表現である。名目ベースでは2014年4月の消費税率引き上げにおいて家計消費の反動減は1四半期にとどまり、続く5四半期は増加している。実質消費の伸びの鈍化は消費税率引き上げというより物価上昇によるものというのが正確である。消費税率引き上げは物価上昇の一因ではあるが、他にも円安による輸入物価上昇や労働集約的サービス業での人件費上昇等もあることを無視することは不適切である。

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1997年4月の引き上げ時も、反動減は第二四半期だけで、第三四半期には増加に転じている。第四四半期からの3四半期連続減とその後の停滞は、秋に発生した金融危機とそれを契機とした企業のリストラ本格化→人件費抑制によるもので、消費税率引き上げによるものではない。

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藤井は『「10%」消費税が日本経済を破壊する』では、

では一体、1997年には何があったのだろうか? つまり、何故に1998年に、日本はデフレに突入したのだろうか?
一つが、1997年のアジア通貨危機であり、もう一つが、既に指摘した1997年の3%から5%への消費増税である。
1997年の消費増税こそが、日本を衰退させた「真犯人」であるという「真実」であった。

と、日本経済の石油危機後の最大の衝撃だった金融危機を隠して消費増税を「真犯人」にでっち上げているが、今回も同じでっち上げを行ったことになる。

2ページの二つ目のグラフでは、学者(京都大学教授)とは思えない無茶苦茶な試算を示している。

以下のグラフは消費増税がなければ本来であれば実現できていたであろう経済成長推計値を示しているが、その推計被害額はリーマンショックによるそれの数十倍にも及ぶことがクッキリと見て取れる。

この試算では「本来であれば実現できていたであろう」現在の家計消費が現実値の1.6倍弱になっているが、そのためには主な原資の給与所得も1.6倍になっていなければならないことを無視している。

家計消費の停滞の原因が賃金・俸給の抑制であることは、両者の密接な関係からも明らかである。

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20年前よりも平均時給が下がっているのだから、家計消費が増えなくて当然である。

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つまり、金融危機を契機として日本企業が株主利益の最大化のために人件費を最小化する株主重視経営に転換したことが、家計消費停滞の主因ということである。このことは、企業のリストラが一段落した2002年度以降も人件費が停滞する一方で配当金が激増したことからも明らかと言えよう。

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藤井説では「消費税率引き上げ→企業が人件費を抑制して配当を増加」になるが、そのような因果関係が成り立たないことは常識でわかるだろう。藤井が本気でこのように考えているのであれば学者としての専門知識に、消費税率引き上げに反対するための「嘘も方便」と考えているなら学者としての誠実性に、いずれにしても学者としての資質に問題があると言わざるを得ない。「目的は手段を正当化する」というのでは学者ではなく活動家である。

消費税率引き上げの主な目的は社会保障財源確保のためだが、藤井が社会保険料負担の増大を無視していることも不誠実の証拠である。

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藤井とは違い、もう一人の「京都学派」の西田議員は現状を正しく認識している。

このグラフ見ていただいたら分かりますように、この青い実質賃金、これはずっと下がり続けているわけですね。下がり方がやや止まったとはいえですね、下の労働分配率、これが大幅に下がっている。つまりは、企業側がですね、非常に利益を上げてるわけですね。企業側が利益を上げてるのにそれが賃金に生かせていない、これが最大の日本の今問題であるわけなんです。
実際には実質賃金が減少しているわけで、賃金が下がって消費は増えないと思うんですが、いかがですか。
要するにね、雇用形態がどんどん変わってしまっているんですね、平成になってから。グローバリズム、新自由主義経済で、要するにコストカットして企業は利益を上げて、その上げた分を配当に回していくのがいいというような経済モデルになってきてますから、ここを変えない限りどうしようもないわけですね。

藤井の主張は、西田が言うところの「今の日本の最大の問題」を隠蔽するもの、あるいは安倍首相批判を財務省批判にすり替えるものと言えよう。

もっとも、安倍首相批判を財務省批判にすり替えることに関しては西田議員も同じ穴の狢である。


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