政府が企業に促す「内需圧殺策」

いわゆる反緊縮派にはこのような論調の人が多いが、賃金を支払う主体は民間企業なので、財政政策よりも先に企業の賃金抑圧を問題にしなければならない。

最も肝心なのは経済政策、ことに財政政策である。外需頼みの一方で消費税増税や緊縮財政を繰り返して内需を圧殺すれば、賃金上昇率から消費者物価上昇率を差し引いた実質賃金上昇率は正社員だってマイナスになっている。パート、派遣など非正規社員となるとはるかに困窮化する。

国税庁「民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した35~39歳の男の給与所得者の平均給与は1997年から2019年にかけて10%も減少している(589万円→529万円)。

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緊縮財政→企業業績が悪化→賃上げができないのではなく、2000年前後を境に企業の付加価値の増加が人件費増加に結び付かなくなっている。株主至上主義経営では賃上げは株主に対する背信行為になるので、付加価値が増えても経営者は人件費を増やさず、株主還元か再投資(主に現預金と対外直接投資)に回してしまう。これが構造改革の帰結としての日本経済の新常態である。

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付加価値が増えても人件費は増やさない経営を企業に遵守させることを「改革リストのトップアジェンダ」にしていたのが安倍政権で、その両輪がコーポレート・ガバナンススチュワードシップ・コードである(以下は2015年と2014年の発言)。政府は「内需圧殺策」を放置しているのではなく、グローバル投資家の利益の最大化のために積極的に推進している。

安倍内閣の改革は、どんどん進んでいます。中でも、私の改革リストのトップアジェンダは、コーポレートガバナンスの改革である。繰り返し、そう申し上げてきました。
24日からの国会に、会社法改正を提案します。これで、社外取締役が増えます。来月中には、機関投資家に、コーポレート・ガバナンスへのより深い参画を容易にするため、スチュワードシップ・コードを策定します。

賃金に関しては大企業がプライスリーダー、中小企業がプライスフォロワーに相当するので、大企業が株主至上主義経営になれば、中小企業の賃上げも抑えられる。

この企業を通じた間接的な「内需圧殺策」こそ国勢の衰えの主因なのだが、マクロ経済動向は財政政策によって決まると思い込んだ反緊縮派にはそのことが全く見えないようである。反緊縮派が「消費税増税や緊縮財政」が原因だと叫び続ける間は、株主至上主義者は抵抗を気にすることなく安心して改革を進められる。

ここまで話を聞き、MCの堀潤は「米国の投資家のための改革に聞こえる」と率直な感想を示すと、室伏さんも同意。そして、「ROE(株主資本利益率)、要は資本を投下した人に対してどれぐらいの利益があがっているのか、とにかく利益を出せという話になっている」と示唆。
さらには賃金カットの「低賃金化」が進むと、「雇用の不安定、低賃金でお金がないから結婚できない。結婚したとしても子どもを産み、育てることができるような収入が得られない。“貧困化”、“少子化”を招いている」と言及します。

「日本国民の利益を最優先しない」が、安倍首相(当時)が2013年にニューヨーク証券取引所で述べた「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」に込められた意味だったことになる。

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