積極財政論とMMTは似て非なるもの

混同されがちな日本の積極財政論と本家の現代貨幣理論の違いを整理する。

積極財政派の論理は

①財政支出を増やし続ければ必ず需要超過→景気過熱→インフレ昂進に至る。

②デフレ又はディスインフレが続いているのは需要が慢性的に不足して景気が冷え込んでいる証拠。

③インフレ率が目標水準を超えるまで財政赤字と支出を増やせば需要不足が解消して経済が正常な成長軌道に戻る。

というケインズ的なものだが、日本のデフレ・ディスインフレは20年以上も続いていることから、最近では一段階上げた「高圧経済」も主張されるようになっている。

財政出動で需要が供給を上回れば、企業が需要の獲得を目指して設備投資を行うし人も雇う。それで賃金が上がるから消費も増える。こうして民間の投資や消費が増え続ける軌道にのったら、その段階で財政支出の拡大は不要になります。要するに、デフレと言う異常事態を脱却して正常化するということです。

他方、MMTerの論理は

➊雇用を創出する財政支出を増やし続ければ必ず完全雇用に至る。

➋失業・不完全雇用(underemployment)の存在は財政支出が過少な証拠。

➌失業・不完全雇用がゼロになるまで公的部門が最低賃金で雇い入れれば物価安定と完全雇用を同時に達成できる。

というものである。最低賃金で雇うのは賃金と物価が相乗的に上昇するのを防ぐためで、Job Guarantee Programには物価のアンカーの役割もある。

両者は「供給力(特に労働力)が余っている状況では財政支出を増やして余剰を解消する」という外形は同じだが、その政策目標と具体策には大きな違いがある。積極財政派が景気拡大を主目標にするのに対して、マルクス・新左翼系のMMTerの目標は失業ゼロの「公正な社会の実現」である(先富論より共同富裕)。また、超積極財政=高圧経済だが、JGPは経済が高圧にならないようにする安全弁なので、目指す方向が真逆である。故に、積極財政派が自説の正当化に新左翼系の経済理論のMMTを用いるのは筋違いになる。

積極財政論の穴は②にある。構造改革後の日本経済には賃金と物価に強い上方硬直性が生じているので、インフレ率の「経済の体温計」としての精度は大幅に低下している。実際、失業率は2018~19年にはバブル期並みの水準に低下したが、賃金上昇率はバブル期には程遠く、サービスのインフレ率も0%台前半にとどまった。

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新車も供給不足だが大幅値上げではなく納車の遅れで対処されている。

積極財政派は日本経済の余剰供給力と可能な財政支出の規模を過大に見積もっている可能性が大きい。サプライチェーンのグローバル化が進んでいることも、内圧が高まりにくくなる要因になっている。老化が著しい日本経済への「高圧」は年寄りの冷や水になりかねない。

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