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アトキンソンを批判するなら正確に

最近、俄にD. アトキンソン批判が増えてきたが、俄のためかアトキンソンの論旨を曲解したものが多い。

アトキンソンが言っているのは、従業員数10人の会社が100社あるよりも、50人の会社が20社の方が総生産が多くなる(はず)ということである。

暴力団でも、弱小の組が分立するよりも、統合してある程度の規模になった方がトータルでの勢力が増す。国も、小国が分立しているよりも統一国家になった方が国力が強くなる。企業も事業内容によりけりではあるが、一般的にはある程度以上の規模がある方が経営の自由度が増すので、生産性を向上させやすくなる。

規模拡大によって労働生産性が高まれば、賃上げ余力も大きくなる。また、労働市場で賃金が上昇すると企業は労働生産性を高めなければ採算が取れなくなるので、設備投資→資本装備率上昇→労働生産性上昇での解決に積極的になる(イギリスで産業革命が起こった重要な要因)。企業の労働生産性向上意欲は賃金が鍵を握っているので、アトキンソンは最低賃金を引き上げることで中小企業の経営者の尻に火を付けて、労働生産性を向上させるための統合を促そうと主張しているのである。

アトキンソンは日本経済の総生産と総賃金を増やすための政策を提言しているのであり、企業の収益性向上のためには失業者が増えても構わないと言っているのではない。

小規模企業で働く人が少ない国は経済パフォーマンスが好調な傾向があることは、欧州委員会の"SME Performance Review"からも確認できる。グラフでは企業を雇用者数で

Micro: 1~9人
Small: 10~49人
Medium: 50~249人
Large: 250人以上

に分類している。SMEはSmall and medium-sized enterpriseの略。

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アトキンソンへの批判には「中小企業を減らすと失業者が増える」というものがあるが、その逆である。

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マクロ経済のパフォーマンスが悪いイタリアとギリシャでも、企業規模が大きくなると生産性が高くなっている。

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ドイツ経済の強さの一因に独自の技術力を持つSMEが多いことが指摘されるが、それらの多くはアトキンソンが「減るべき」とする中小企業ではなく、「増えるべき」とする中堅企業に相当する。

極端に表現すると、アトキンソンは日本経済の構造をギリシャからドイツに近づけるべきと主張しているわけである。日本がギリシャに似た経済構造であることが事実なら、この主張に反対する人は少ないだろう。

もっとも、以前の記事で指摘したように、アトキンソンの現状認識が正確か、正確だとしても手段と工程が適切かについては議論の余地が大きい。劇薬を飲まされたくないのであれば、正確な批判が必要である。

「企業規模が大きくなると生産性や賃金が上がるなんて話はデマだ」や「現実をわかっていない弱者イジメだ。小さくても技術力の高い町工場などが大企業に吸収されろというのか」などの怒りのコメントが多数を占めているが、アトキンソン氏の著書には、これらのコメントに対する反論が既に用意されており、政策論争をすれば、アトキンソン氏側に軍配が上がることだろう。

2002年を境に、小→大へのシフトが急速に進んでいることに注目。

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