「日本は上手くいっているが、日本人はそうではない」

この本👇の68-69ページに鋭いことが書いてあるので紹介。

我々は、「経済は上手くいっているが、市民はそうではない」という論争的なジャーナリズムの常套句と直面している。この常套句はグローバリゼーションに関して特に当てはまる。なぜなら、かの有名な経済発展のトリクル・ダウン効果(つまり、経済成長のおこぼれの波及効果)は、1980年代以降、トリクル・アップ効果へ変わった——トリクル・アップは、最も深刻な貧困と戦う英国のNGO(1979年設立)が名付けた表現である。つまり不平等増加の論理が生じたのだ。
かくして、2003年11月18日付のル・モンド・エコノミー誌には、「日本は上手くいっているが、日本人はそうではない」というタイトルの記事が掲載された。そのすぐ後、この表現は財政緊縮政策を実施したすべての国に対して用いられた。

日本経済は1997年から失速・停滞したが、2002年には立ち直り、その後は戦後最長と二番目に長い景気拡大を達成している(グラフのカラー部分)。

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反緊縮カルトは「日本経済の成長率は世界最低」というデマを流布しているが、生産年齢人口1人当たりの実質GDP成長率は主要先進国の中では高い。

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しかし、景気拡大期にも実質賃金は上昇しない。コロナ禍までは日本経済は上手くいっていたが、労働者はそうではなかった。

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日本経済の構造変化が主因である。

金融資本主義の到来

大企業がグローバリゼーションに適応

トリクルアップへの経済構造変化

所得の不平等や貧困の増大

大企業をはじめとした企業の各経営者は、彼らにとってのグローバル化の重要性をすばやく理解した。すなわち、中国、アメリカ、そして現在ではヨーロッパにおいて、直接投資が増加したということである。世界第二位の経済大国である日本は、市場を求めて、あるいは、自国に欠けている製品やテクノロジーを求めて、経済の開放という切り札を用いたのである。
こうした社会的妥協から生まれた以前の規律が弱体化したことにより、特に日本では他の国以上に、所得の不平等や貧困の増大といった問題が生じている。
要するに日本もまた、日本特有の形で「金融資本主義」の到来にさいなまれているところなのである。

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普通の国では、このような結果を招いた構造改革への反発が強まるが、日本では20年以上が経過しても「改革」を支持する国民が多数を占める。貧しさをエンジョイしたい(あるいは他人に貧しさをエンジョイさせたい)国民が多いと考えざるを得ない。これでは企業が好業績でも賃金が上がらなくて当然である。

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ついでに書いておくと、このようなトリクルアップへの構造改革を煽動していたイデオローグの一人が小室直樹である。カルト的な崇拝者がいる小室だが、一億総中流社会を実現した戦後の修正資本主義を否定して格差社会の戦前の株主至上主義への回帰を主張した筋金入りのネオリベラルで、その弟子の自称広義のリベラリスト宮台真司も外資による日本経済乗っ取りを大歓迎していた。

日本のさまさまな産業が外資系によってのっとられていくことも、過渡的には必要だとさえ思っています。不合理な雇用環境、性別役割分業、さまざまな問題を抱えた家族制度、そうしたものが解体、再組織されるためには、どうしても外国資本が入ってくる必要があります。

「広義のリベラル」とはネオリベラルに他ならない。

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