大蔵省と橋本龍太郎が敷いた日本没落へのレール

マイナス金利云々は別として、この「社会的割引率4%は高過ぎるので引き下げるべき」は正論である。

本コラムでも指摘したように、割引率4%は今の金利環境では高過ぎて、日本の公共投資を過小にしてきた。
一部の野党でMMTがもてはやされているが、それよりも、実務的には、ロジカルに割引率を見直した方が公共事業の拡充には早道である。
この割引率問題を直さずにMMTなどに走るのは本質をずらしていると言わざるを得ない。MMTをいくら主張しても、実際の実務では割引率を是正しないと公共事業を拡充できないのだ。

(MMTをもてはやしているのは野党ではなく自民党の一部の議員)

公共投資拡大→金利上昇→民間設備投資減少のクラウディング・アウトの可能性がないにもかかわらず、4%の社会的割引率を堅持することは百害あって一利なしである。国債金利低下を反映して財政融資資金預託金利も直近では0.4%に低下しているのだから、2%以下に引き下げるのが妥当だろう。

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費用対効果(B/C)分析を公共事業を削減する手段として本格導入したのは橋本龍太郎である。

1996年12月に行政改革委員会から提出された「行政関与の在り方に関する基準」において、「行政が関与する場合には、それによって生じる社会的便益と社会的費用とを事前及び事後に総合的に評価し、その情報を積極的に公開する」ことが提言された。この提言を最大限尊重するとの閣議決定がなされ、それを受けて、1997年には国が行うすべての新規公共事業について費用対効果分析を行わなければならないという指示が当時の橋本龍太郎総理大臣から出された。

財政構造改革は、人口減少に対応して日本経済をダウンサイジングさせなければならない、という考え方に基づいていた。これは「量的な拡大路線からの転換」という意味では誤りではないが、生活水準向上に必要な技術力や労働生産性など「質を高める」ための支出まで縮減したために、日本経済が他国に追いつき追い越されていく切っ掛けとなった。

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ケインズは「国家的自給」で、このように主張していたが、橋本はわざわざ「自滅的な金銭収支計算」を導入したわけである。日本は人口減少するのだから縮まなければならないと思い込んでいたのだろう。

われわれは貧しくなければならない。なぜならば豊かになることは「ペイ」しないからである。われわれは粗末な家に住まなければならない。それは立派な家を建てられないからではなく、その余裕がないからである。
このような自滅的な金銭収支計算と同じ考え方は生活のあらゆる分野に及んでいる。
その基準を変更する必要があるのは、個人よりも国家である。捨てるべきなのは、大蔵大臣の株式会社の会長のような基準である。

無能な働き者だった橋本は大蔵省の操り人形だったらしい。

われわれ大蔵官僚が、政治家に何か聞き返されて、「先生すごいですね。よく気がつきましたね。素晴らしいクエスチョンですよ」といったら顔が緩むやつがいる。それが橋本龍太郎だった。橋本大蔵大臣はまさにそうだった。だから彼は常に笑われてた。「そんなことはわかってるよ」が彼の口癖だった。われわれがレクチャーに行くと、「あ、そんなこと僕はもう知ってるよ」。
われわれにはすぐわかるんです。彼がアイデアといってるのは、実は局長クラスが料亭で彼と飯食ったときに教えてやってることなんです。だから、そんなこと先刻ご承知なんです。だから橋龍に政策をやらせるのは実に簡単なんです。
龍太郎を見たらすぐわかる。こいつはアホだ。手の平に乗っければこんなにやりやすいやつはいない。

財政構造改革を上回る橋本龍太郎の愚行の金融ビッグバンも大蔵官僚にそそのかされたものだった。

1996年11月11日、時の総理橋本龍太郎は官邸に三塚博大蔵大臣と松浦功法務大臣を呼び、日本の金融システム改革(いわゆる日本版ビッグバン)を2001年までに実施するように指示したのでした。実はこの金融システム改革を仕掛けたのは、当時国際金融局長だった筆者と証券局長だった長野厖士でした。官邸での会合には筆者も長野も同席しました。

財政構造改革では社会的割引率が公共投資を抑制していたが、金融ビッグバンではグローバル投資家が要求するROE、ROA、ROIなどの指標が民間企業の人件費と設備投資を抑制して、投資の海外流出(対外直接投資)や現預金の積み上がりを引き起こしている。

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1960~1990年頃までの相関関係に当てはめると、バブル崩壊後の税引前当期純利益/総資産比率は約2.5%が適正水準になるが、2018年度は4.6%と高度成長期の平均水準4.4%を上回っている。

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金融ビッグバンによって日本経済の潜在成長率に比べて高過ぎる投資収益率を株主から要求されるようになった企業は、徹底的なコスト削減 and/or 海外に活路を求めるようになった。単純化すると、従業員や下請けへの支払いを減らして捻出した金が①株主配当、②海外に投資、③待機資金に向かっていることになる。

ちなみに、これが金融ビッグバンの仕掛け人の一人の現状認識である。

メディアは悲観的に見がちですが、現状に不満を持つ日本人は多くはありません。
大きな不安はありません。悲観する理由はないでしょう。一般の国民も大きな不安を抱えているようには見えません。成長率が下がるのは、成熟すれば当たり前のことです。日本は巡航速度を維持しています。

橋本龍太郎は踊らされただけなのかもしれないが、金融ビッグバンの仕掛け人の狙いは、日本経済を国際金融資本に支配させる「外患誘致」だったのだろう。Free, Fair, Globalの精神は安倍政権にも引き継がれている(以下は安倍語録)。

もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました。
日本を、能力にあふれる外国人が、もっと活躍しやすい場所にします。
日本はこれから、グローバルな知の流れ、貿易のフロー、投資の流れに、もっとはるかに、深く組み込まれた経済になります。外国の企業・人が、最も仕事をしやすい国に、日本は変わっていきます。
そのとき社会はあたかもリセット・ボタンを押したようになって、日本の景色は一変するでしょう。

「内憂」の財政構造改革と「外患」の金融ビッグバンによる日本の没落(株主栄えて国滅ぶ)へのレールが、22~23年前の大蔵官僚と橋本龍太郎によって敷かれたものであることはもっと認知されるべきだろう。

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