アベ・スガはlesser evil

この記事に考察を付け加えてみる。

ポイントは、

①小選挙区制と野党の過激化(西洋のradical leftの模倣)
②社会のリベラル化(特に若い世代)

の二点である。

①だが、小選挙区制では二大政党の政策は似通ってくるという理論が、米英でも成り立たなくなっている。

二大政党システムの下では二党の政策は近接していく。これは経済地理学の古典的な定理であるホテリングモデルから導かれる教訓である。

米英に共通するのは、左派政党(米民主党と英労働党)が労働者重視から経済の自由化重視のネオリベラルに、更には反差別重視のradical leftに変化してきたことである。

日本の左派系野党もこれを猿真似しており、2009~2012年の民主党政権は歳出削減と規制緩和のネオリベラル路線に走り、分裂・再編後は反差別路線に走っている。

現代ビジネスの記事には『しんぶん赤旗』の記事が引用されているが(⇩)、本来、労働者の政党のはずの共産党までが、ジェンダーやLGBTといった西洋のidentity politicsを重視するようになっている。

〈中央メーデーの式典に先立つ文化行事では今年70年を迎えた東京のうたごえの仲間が壇上いっぱいに並び、アメリカのLGBT(性的少数者)権利獲得運動で歌い継がれる「いのちをうたおう」などを合唱。

そもそも、identity politicsとは少数派が多数派に原罪意識を抱かせて屈服させる運動なので、多数派を敵に回すことになる。日本ではこれらは西洋ほど大きな問題ではなく、少数派の勢力も小さいので、左派系野党が大騒ぎするほど支持者は減っていく。

Identity politicsの失敗は、引用されている朝日新聞の記事の別の箇所からも読み取れる。

「クラスの人気者はお調子者やスポーツマンが多い。でも、本当に当選したら学校が荒れるかもしれない。人気はそこそこでも、堅実な人に入れておこう、そんな気持ちに似ています」

日本でジェンダーやLGBTやBLMなどと大騒ぎする政治家は「堅実な人」とは対照的なeccentricな異常者に見えるので、支持が集まるはずがない。西洋の左派の猿真似をした戦略ミスである。

②と関係するのがこの分析(⇩)で、これは自称広義のリベラリスト(要するにネオリベラル)の宮台真司が熱望していたリベラルな成熟社会そのものである。

若者たちは、自分や自分の身内による自助努力と自力救済とを重視して成功を望む。だが自分たちだけで完結させようとするのではなく、自らの属する共同体でその繁栄を継承しようとしているのだ。身内や気心知れた仲間に有効範囲を限定した共同体主義、いうなれば「マイクロ共同体主義」の原理で彼らは動いている。

宮台はこの(⇩)ようなことを言っていたが、マイクロ共同体主義はネオリベラリズムに通底する。

◆成熟社会で国家社会を論じる奴はバカ→マクロを考えても無駄なのでミクロに特化するべき
◆学校の教室は他人と一緒を強要されるストレスの場なので解体するべき→友達を作れない奴は社会から排除
◆「仲間以外は皆風景」になる→仲間以外とは相互不干渉
◆自由化によって格差が拡大することが望ましい

自由化すると、人がばらけてますから、自分で友だちをつくる力がないと永久に孤立する。現に、自由化を進めた単位制高校などを見ると、結局、友だちをつくれなかったヤツは脱落していくんですね。ものの見事に。「だから、自由化は日本には向かないんだ」という教員もいるんですが、それこそとんだ勘違い。高校どころか、幼少期から自分で自分のことを決める訓練こそが必要なんですね。
自己決定のシステムにすると、何かが起こると、自分が招いたことなんだという態度が養成される。

しかし、現代の左派リベラルにはpolitical correctnessを押し付ける鬱陶しさもある。これは「マイクロ共同体主義」で終わりなき日常をまったりと生きている若者たちには大きなお世話なので、否定的な評価につながる。

後進国の政治に例えてみると、自民党政権は「クローニーキャピタリズム/国民生活には無関心な現政権」、左派系野党は「共産主義/革命に協力しないノンポリの庶民を敵視する過激派」のようなものである。こう書くと左派系野党は昔の新左翼のようだが、西洋の左派リベラルは新左翼がアップデートしたものなので、似通っていても不思議ではない。

結局のところ、若者たちには景気対策や雇用対策で実利を与えてくれそうにないeccentricな野党を選ぶ理由がないことが、lesser evilの自民党支持につながっているということだろう。

野党が支持を得るとすれば初心に帰ってこの路線(⇩)だが、

筆者はトランプ氏の大統領就任以来、昨年5月にブルームバーグビジネスウィーク誌のジョシュア・グリーン氏が「トランピズム(Trumpism)」の意味をまとめた文章を思い起こしていた。トランプ氏はそこで自分の態度が即興的でも一貫性を欠くものでもなく意図的だと示唆していた。同氏は「労働者の政党」すなわち「18年間実質賃金が上がらない人々の政党」を作るつもりだった。共和党が「今から5年後、10年後には別の政党になっている」と語った。

日本の野党もトッドが批判する「左派高学歴エリート」になっているので、まず不可能だろう。若者がおかしいのではなく、左派高学歴エリートがおかしいのである。


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