日本の20年間の変貌をグラフで見る

日本の転換点は金融危機が発生した1997年である。11月に三洋証券→北海道拓殖銀行→山一證券が連続経営破綻した金融危機が引き金となって企業の「三つの過剰」を整理するリストラクチャリングと政府主導の構造改革=日本改造が本格化した。

日本経済の正味の規模を示す国内要素所得の推移からは、バブル崩壊後の停滞から立ち直りかけていた日本経済が、1997年を境に長期停滞にはまり込んだことが見て取れる

構造改革の20年で日本の経済社会がどのように変化したかを、1996~1998年と2016~2018年の比較によって確認してみる。

国内要素所得は1997年度→2017年度では-1.1%で、増加しなくなったことが特徴である。

雇用者が受け取る賃金・俸給は-4.4%。

1時間当たり平均では-3.6%で、20年前よりも平均時給が下がっているという異常事態である。

1人当たり家計可処分所得は-3.6%と、名目ベースでは20年前よりも貧しくなっている。

同期間にアメリカでは2倍になっている。

アメリカの数値を円換算して比較すると、20年前は日本はアメリカとほぼ同水準だったが、現在では1/2しかない。韓国との差も大幅に縮小している。日本国内にいると絶対的に「所得は減っていない」と感じるかもしれないが、海外から見た日本は相対的に「どんどん貧しくなっていく国」なのである。

賃金・俸給が増えない一方で、配当は6倍に激増している。

企業利益に相当する第1次所得バランスもほぼ倍増している。企業は賃上げできないのではなく、しなくなっただけなのである。

国内要素所得を産業別に見ると、製造業は約2割減少している。

中でも、自動車産業と並ぶ柱だった電機産機は壊滅状態である。過去20数年間の情報通信革命における勝者となれなかったことが、供給面における日本経済停滞の主因と言える。

「コンクリートから人へ」は進んでいる。技術進歩によって労働生産性を高めやすい製造業から、労働生産性を高めにくい介護サービス等にシフトしていることが、経済全体の生産性を高めにくくしている。

企業の利益剰余金(いわゆる内部留保)も約3倍に増えているが、土地と建設仮勘定を除いた有形固定資産は逆に減っている。このことは、企業の内部留保が日本経済の供給力を増やす資本ストックではなく、金融資産になっていることを意味する。

20年前までは内部資金≒設備投資だったが、近年では内部資金が設備投資を大幅に上回っている。

余剰資金は主に対外直接投資と現預金に振り向けられている。このことは、企業の資金運用優先順位が”海外投資>待機資金>国内投資”になったことを示している。

企業は内部資金で設備投資を十二分に賄えるため、外部資金調達の必要性が低下し、恒常的な資金余剰に転じている。

企業の資金余剰は他部門の黒字縮小and/or赤字拡大となるが、その結果が1100兆円を超える「国の借金」である。

政府は財政赤字縮小のために消費税率を引き上げているが、

法人税率は大幅に引き上げている。企業と政府が共謀して家計を窮乏化させているわけである。

企業:賃金・俸給を減らす→税引前利益が増える→法人税率低下→税引後利益が大幅に増える→配当と内部留保が大幅に増える
家計:賃金・俸給が減る→消費税率が上がる→家計がますます苦しくなる

GDPの内訳にも日本経済の構造変化が表れている。公的固定資本形成が約4割減となる一方で、輸出入は約2倍に増えている。

日本経済は貿易依存度が低いことが特徴だったが、もはやそうとは言えなくなっている。

財の貿易収支の黒字は大幅に縮小する一方で、サービス収支の赤字は縮小している。対外直接投資と所得収支も大幅に増えており、日本企業の海外シフト(空洞化)が進行していることがわかる。

海外生産比率の上昇も日本経済の空洞化を示している。

就業者は1997年→2018年で男は-4.5%だが女は+10.5%で計+1.6%である。男が多い製造業と建設業が縮小した反面、女が多い介護など対人サービスが増えたことを反映している。

出産・育児世代の女の労働力化が進んでいるが、これは政府が長期的な人口回復よりも、目先の労働力確保を優先していることを反映している。

女の労働参加率が高まる反面、男の働き盛り世代(prime age)の非労働力は高止まりしている。ネット株取引やYouTuberなどで生計を立てている男が変化分の2%(約50万人)もいるとは考えにくいため、労働意欲を喪失してひきこもった「ミッシングワーカー」が多数含まれている可能性が高い。

人口動態では出生は3/4に減り、死亡は1.5倍に増えている。

20年前は15歳未満と65歳以上がほぼ同数だったが、現在では65歳以上が2倍以上と高齢化が顕著である。

日本人が減る一方で、外国人は激増している。

訪日外国人の激増は、海外から見た日本が「豊かな国」から「安い国」「手が届く国」に後退したことを示している。20数年前までは「内外価格差」と言えば日本の物価が海外よりも高いことを指したが、現在では逆に海外の物価が高くなって円の購買力が低下していることを指すように逆転している。

以上をまとめると、

増加

企業利益
配当
利益剰余金(内部留保)
海外投資
国の借金
消費税率
女の労働力
男の非労働力
死亡
高齢者
外国人

増加が停止

時給
家計可処分所得

減少・縮小

製造業(特に電機産業)
法人税率
貿易黒字
出生

考察

ピーター・タスカが1997年の著書『不機嫌な時代』で描いた2020年の日本のワーストシナリオ「大逆転」では、日中の立場が逆転し、多くの日本人が低賃金の貧困生活を送る羽目になっているが、それに近い現実となってしまったようである。

それでも大半の人々はきわめて現実的で、この状況を「しようがない」といって受け入れていた。なにしろ、そうするしか手がなかったのである。

日本経済の構造変化は、上流=労働者と下流=株主の水争い(水論)にたとえられる。下流住人が強欲な「物言う株主」に入れ替わったことと、株主利益最大化(⇔人件費最小化)が「正しい資本主義」という原理主義が広がったことから、政府も介入して下流の取り分を増やすために上流の取り分が減らされた。その結果、家計が干上がる→消費が停滞→経済全体が停滞となってしまったわけである。

ケインズが言うところの"defunct economist"あるいは"academic scribbler"の例。

日本は資本主義ではない。
資本主義の企業は、株主に最大の利益(配当)をもたらすことを以て、その目的とする。
コストを最小にするのが目的である。

「株主がおなかいっぱい食べることができれば、全員が満足している」という学者の戯言で大衆を騙して「株主はタラフク食ってるぞ ナンジ人民飢えて死ね」の社会に作り替えることが、構造改革の目的だったわけである。

企業の売上高をピザと考えましょう。取引先、社員、債権者、政府、株主という順で、ピザを食べていきます。株主の順番になったとき、ピザが残っていなければ、株主が満足しないだけではありません。その前の誰かがピザを食べそこなった可能性があります。株主の順番になったとき、ピザが残っていれば、株主以外の利害関係者は満たされています。株主がおなかいっぱい食べることができれば、全員が満足しているといえます。
私が、若い人に1つだけ言いたいのは、「みなさんには貧しくなる自由がある」ということだ。「何もしたくないなら、何もしなくて大いに結構。その代わりに貧しくなるので、貧しさをエンジョイしたらいい。ただ1つだけ、そのときに頑張って成功した人の足を引っ張るな」と。

世界史に類例を探すと、スペインとポルトガルによるラテンアメリカ支配が酷似している(強調は引用者)。

重大な転換の契機は、十八世紀のカルロス三世の改革やブラジルのボンバルの改革である。それは、さらに帝国主義的支配を強化するためのものであった。植民地行政区画の変更や細分化などの行政改革貿易制度改革税制改革、新たな財源確保のための産業開発、資本の大規模化と労働雇用の自由化などがその骨子であった。この改革は植民地社会を根底から変えた。帝国支配の強化は、本国の発展のために植民地社会を奉仕させることを意味する。具体的には、生産規模の拡大と生産活動の多角化と効率化による、より効果的な富の収奪である。直接生産者である労働者にとっては隷属的支配の強化となる。こうして支配と被支配の関係がさらに先鋭化し、先住民社会は困窮化と衰退化を進行させていった。その他の社会にあっても、社会格差は拡大し、大衆の社会生活は圧迫された。生産活動の分野では、生産者の管理強化労働者の過剰収奪が常態化した。鉱山開発産業や輸出産業は発展するが、国内消費向け産業は停滞するという不均衡的発展が促進された。

本国――グローバル資本
植民地―日本
総督府―日本政府
総督――内閣総理大臣
先住民―日本人

と置き換えてもほとんど違和感がないが、実際、安倍首相もニューヨーク証券取引所やダボス会議で、日本を外人投資家が儲かる国に一変させる、そのための障害は自分が「ドリル」となって破壊すると公約している。日本国の内閣総理大臣が自らを外国人の利益のために粉骨砕身するエージェントだと言明しているのである。

今日は、皆さんに、「日本がもう一度儲かる国になる」、23年の時を経てゴードンが金融界にカムバックしたように、「Japan is back」だということをお話しするためにやってきました。
ヨーロッパの皆さん。成長するアジアに投資をお考えであれば、どうぞ日本に。・・・・・・もし、皆さんの投資意欲を削ぐ何かが見つかれば、すぐに私に教えてください。いかなる岩盤も、私の「ドリル」の前には無傷ではいられません。
日本を、能力あふれる外国人の皆さんがもっと活躍しやすい場所にしなければなりません。
外国の企業・人が、最も仕事をしやすい国に、日本は変わっていきます。
そのとき社会はあたかもリセット・ボタンを押したようになって、日本の景色は一変するでしょう。

過去20年間の構造改革とは、日本を外国人が跋扈する植民地、日本政府を総督府へと一変させることであり、それを熱狂的に支持して「抵抗勢力」を選挙で追放したのが日本国民だったというオチである。

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