日本の生産性は韓国に追い抜かれていない

この記事の数字は嘘ではないが、解釈は大袈裟でミスリーディングである。

日韓比較

記事で比較されているデータをグラフで示す。いずれも購買力平価(日本は1ドル=104.6円)で換算した米ドル表示。

1人当たりGDP

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記事では「労働生産性」とされている就業者1人当たりGDP

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労働時間当たりの生産性では韓国に追い抜かれていない。

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この記事では購買力平価についてこのように説明しているが、これは「相対的購買力平価」のことであり、

購買力平価とは、「ある時点を基準時点とし、そのときと購買力が同じになるように為替レートが変化した場合のレート」のことだ。
また、購買力平価は基準時点をどこにとるかで変わってしまうが、どこをとったとしても、その年次のレートが「正しい」ものであったかどうかは疑問だ。

OECDが用いているのは、購買力(財・サービスのバスケットの購入に必要な金額)を等しくする「絶対的購買力平価」のことである(下はOECDの解説)。

Purchasing power parities (PPPs) are the rates of currency conversion that try to equalise the purchasing power of different currencies, by eliminating the differences in price levels between countries. The basket of goods and services priced is a sample of all those that are part of final expenditures: final consumption of households and government, fixed capital formation, and net exports. This indicator is measured in terms of national currency per US dollar.

このような用い方(⇩)には適さないとも注意されている。

Strict ranking of countries without taking statistical error margins into account

購買力平価よりも円安の市場の実勢為替レート(1ドル=110.5円)で日韓を比較しても、まだ韓国には追い抜かれていない。

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もっとも、日本経済は就業者1人当たりでは全く成長しなくなっているので、このままでは近い将来に市場為替レート換算でも日韓逆転が実現する可能性は十分ある。

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労働生産性と製造業

記事はこのように締めくくられているが、

日本経済の本当の問題は、人口減少でなく、1人当たりの生産性が低いことなのである。
日本の生産性がなぜこれほど低いかを、明らかにすることが必要だ。
そして、日本の生産性を上昇させることに、真剣に取り組むことが必要だ。

経済全体の労働生産性を左右する重要な要素はテクノロジーと資本ストックであり、主に製造業がカギを握っている。

野口の長年の持論はこれ(⇩)だが、製造業が成長を続ける韓国とドイツは滅んでいない。

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テクノロジーの進歩が起こりやすい産業は製造業とICT産業だが、前者は海外シフト(空洞化)、後者はアメリカ企業に席巻されてしまったことが、日本の生産性上昇が止まってきた根底にある。

天然資源が乏しい日本にとっては技術力・生産力こそ「資源」なので、製造業ベースが弱まることは、炭鉱が閉山された夕張や、リン鉱石が枯渇したナウルのようになることを意味する。観光では立国できないことは夕張を見ればわかることである。

最近では、金融や輸送などいくつかのサービス産業で高い生産性向上を見ている。これを見て多くの人が、一国はこうしたサービス産業に立脚して経済開発できると言う。・・・・・・だが2008年危機は、サービスこそ新たな成長の原動力という信仰はあらかた幻想だったことを無残に証明した。
そのうえ、こうした生産性の高いサービスの多くは、工学、設計、経営コンサルティングなどのいわゆる「生産サービス」であり、その主要顧客は製造業者である。だから製造業ベースが弱まれば、やがてはこうした輸出し難いサービスの衰退にもつながる。

次の記事のアイルランド編に続く。

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