ハンガリーの「すごい」少子化対策の成果

ハンガリーの少子化対策が成功しているという記事だが、現時点では過大評価である。

世界に目を向けると、少子化対策に成功している国もある。その代表例が、ハンガリーである。
ハンガリーが少子化対策に充てる年間予算は、GDPの4.7%! OECD(経済協力開発機構)加盟37カ国の平均は2.55%で、日本は約0.8%しかない。つまり、比率を単純に比較すれば、日本の約6倍だ。オルバーン政権が始動して10年あまり経ったいま、1981年以来、減少し続けてきた人口減に、歯止めがかかり始めたのだ。

「人口減に、歯止めがかかり始めた」とは言えない。

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年間4万人前後の自然減が続いている。

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もっとも、2020年の自然減の増加は死亡の増加(+7.7%)によるもので、出生は+3.4%と4年ぶりの増加となった。

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合計出生率(TFR)は回復が鮮明で、前年比+0.06ポイントの1.55(暫定値)に上昇した。

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ただし、この上昇が「すごい」少子化対策の成果と判断するのは早計である。1990年代の1.8→1.3への低下の主因は共産主義体制の崩壊による社会の激変と不確実性の増大によるものだが、2010年にオルバーンが首相に返り咲いてからは(良くも悪くも)政権は安定したので、産み控えが解消して出生率が上昇するのは自然だからである。2020年の出生数も、各四半期の対前年同期比は+6.6%、+4.7%、+4.0%、-1.3%と低下傾向にある。今後はCOVID-19の影響も本格化するので、少子化対策の効果を判断するにはまだ時間を要する。

オルバーン首相は「2030年に2.1」を目標にしているが、1960年以降でその水準(人口置換水準)を超えていたのは1974~1977年の4年だけで、かなり高いハードルである。

ハンガリーの「すごい」少子化対策は公的支出の規模だけを見れば北欧諸国と似ているが、そのベースにある考え方は正反対であることには要注目である。

北欧はイデオロギーに基づいて「結婚した男女の両親+子供」の伝統的な家族を解体する方向だが、ハンガリーは伝統的家族での子育てを支援する方針を強く打ち出している。その成果は婚姻の急増と婚外子の割合の減少として表れている。これが出生増加につながるかが今後の焦点になる。

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オルバーン首相は「キリスト教的伝統の破壊が少子化などの社会の崩壊を招いている」という認識なので、西側リベラルのイデオロギーと激しく衝突している。東の共産主義に支配されたハンガリー人は、今度は西のリベラリズムを同様の脅威と見ている。

ハンガリーの家族政策のベースにある思想については下の記事を参照。

This “social gender” definition, however, conflicts with Hungary’s constitution because the clause denies that there are only two biological genders, male and female.
By refusing the ratification of the Istanbul Convention, Hungary, says “Yes!” to the protection of women but “No!” to gender ideology and illegal migration.
Speaking about the importance of families, Prime Minister Orbán said that “we [Hungarians] protect the traditional family model and think in national frameworks. If there are no families, then a national community can disappear.”
Getting married and having children is of course something Hungarians do of their own free will. This is simply about making it easier on them financially by helping out with the costs that come with having and raising children. And, yes, the hope is that by making it easier financially, the fertility rate among Hungarians will continue to grow.

付録

人口推移の男女差にも注目。

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中年以降での男の相対的減少が弱まっている。

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自然増減では死亡の男女逆転(社会の安定の反映)、

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社会増減では労働力の国外流出を防ぐ"slave law"

の寄与によるものと考えられる。

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