反緊縮・俗流MMTのエコーチェンバー

ニセ科学やニセ医学にはまる人は、標準的な科学や医学の知識が足りないことが多いが、主流派経済学や財務省を罵倒する反緊縮派やMMT信者にも同じ傾向が見られる。

例えばこの本(⇩)だが、素人が偏った知識に基づいて書いていることが丸わかりである。一例を挙げる。

国の予算規模は一般会計約100兆円、重複等を除いた特別会計約150兆円、計約250兆円です。
これに対して税収はわずかに約60兆円です。
残りは政府による国債の発行と日銀当座預金への単なる書き込みによって支出しています。
予算の執行、つまり財政支出は、税収を使って行われるのではありません。
税収が約60兆円で財政支出が約250兆円だから、税収は支出のわずか4分の1に過ぎないということはすでに述べました。
しかしそのことよりも重要なのは、政府はまず税金を集めてからそれを使うのではないという事実です。
私たちが給料をもらってからそれを生活費に充てるのとはまったく違います。

これ(⇩)は2019年度の財政資金対民間収支の一般会計、特別会計、国債等だが、租税と保険(主に年金)を足すと128兆円ある。

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給与所得者が住宅を購入する場合、通常は「銀行等から借りて支払う→給料からローンを返済する」の順になるが、これは「給料は住宅購入費の財源ではない」とは表現されない。銀行から借りられるのは今後も給与所得があるからで、ローン完済までの全プロセスを見れば、給料で住宅を購入していることは明らかである。

財政支出も同様で、国は必ずしも「まず税金を集めてからそれを使う」わけではないが、そのことは税金が財源ではないことを意味しない。財務省が説明するように(⇩)、現行制度では国は税金や国債等によって民間部門から調達した資金を財政支出に充てている。

国は、(1)外交、防衛、司法警察のほか、(2)教育や科学の振興、保険・年金等の社会保障、(3)道路整備や治水・治山等の社会資本(公共財)整備などの様々な行政活動を行っています。
また、国は、そのための財源として税金や国債等により民間部門から資金を調達して支出を行うといった財政活動を行っており、その所有する現金である国庫金を一元的に管理して効率的な運用を行っています。

日本銀行の政府への直接的な信用供与は禁止されているので、日銀による「日銀当座預金への単なる書き込み」は財政支出の財源にはなっていない。日銀当座預金は銀行間決済に用いる無リスク資産として国債等の無リスク・低リスク資産を裏付けとして発行されるもので、政府の求めに応じてホイホイと発行されるものではない。

この本の36ページと中野剛志『日本経済学新論』の10・11ページには藤井聡作成の「1995~2015年までの20年間の名目GDP成長率」の各国のランキングのグラフが掲載されており、日本はマイナス20%で断トツの最下位となっているが、この不適切なグラフが掲載されていることで、本全体の信用性が著しく損なわれている。

藤井のグラフが使い回されていることは、反緊縮派・俗流MMTerが自分たちの思い込みを増幅するエコーチェンバーを形成していることを示している。現行制度の成り立ちを理解していない金融の素人たちがニセ経済学を流布するのは困ったものである。

以上述べてきたようなことは、じつはこれまで中野剛志氏、藤井聡氏、三橋貴明氏、西田昌司参議院議員、安藤裕衆議院議員ら、いちぶの優れた先覚者によってさんざん言われてきたことなのです。

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