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「東京の出生率が高い」の欺瞞

少子化関連記事には不正確なものが多いがこれ👇もその一つで、無理やり理屈を捻り出しているだけである。

以下、記事がフェアでもナイスでもないことを見ていく。

合計特殊出生率は、国全体の出生率として参考にするには有効だが、地域ごとの出生率を比較するには、まったく役に立たないからだ。

全く役に立たないわけではない。市町村レベルではあまり意味が無いが、奥沖縄県や北海道といった十分な人口とまとまりがある地域の比較であれば参考になる。

合計特殊出生率を計算するときのポイントは、結婚していない女性も「分母」に含まれるということだ。

当たり前で「ポイント」にはならない。

金融・財政・人口動態が専門のマクロ経済学者で上智大学の中里透准教授は、未婚女性の移動の状況などでデータに大きなブレが生じる合計特殊出生率よりも、「有配偶出生率」を用いて比較するほうが「有益な参照指標」となるとしている。

有益性は何を論じるかによって違ってくる。夫婦の出生率を論じるのであれば有配偶出生率が有用なのは当然だが、日本の少子化の主因は晩婚化・非婚化(生涯未婚化)なのだから、合計出生率が有益な指標にならないはずがない。

👇はミスリーディングな指標を用いている。

出生率は年齢によって大きな違いがあるので、15~49歳人口を分母にすると、年齢構成の違いが出生率に反映されてしまう。

国立社会保障・人口問題研究所

東京都(特に都心三区)は15~49歳人口に占める出生率の高い年齢層の割合が大きいので、分母を15~49歳人口にすると出生率を高めるバイアスがかかり、有配偶率の低さが相殺される。

総務省統計局「国勢調査」
総務省統計局「国勢調査」
総務省統計局「国勢調査」

「この指標には分母に未婚の女性も含まれているにもかかわらず」とあるが、実は都心三区の出生率が高い年齢層の有配偶率は全国よりも高い。出生率の高い年齢層が多く、しかもその年齢層の有配偶率も高いのだから、15~49歳人口の出生率が高くなるのは驚くことではない。

さらに、出産可能年齢(15歳~49歳)の女性の総数とその年齢階層の女性が生んだ子どもの数をもとに女性人口1000人あたりの出生数を割り出した場合の出生率を出してみると、東京の千代田区・港区・中央区は出生率が飛びぬけて高い(下の図)。
しかも、この指標には分母に未婚の女性も含まれているにもかかわらず、この3区は全国1位の沖縄県に次ぐ2位に位置している。

総務省統計局「国勢調査」
総務省統計局「国勢調査」
総務省統計局「国勢調査」

また、2010年と2020年を比較して各都道府県でどのくらい出生数が“減少”したかを調べてみれば、下記の図のように東京都は減少率がもっとも低い。
逆に、2010年を100として2020年の出生数を都道府県で比較すれば、東京都が最も多いのである。

東京都の出生数の減少率が最も低いのは、出生率が高い年齢層の女を吸収しているからで、合計出生率の低下が小さいからではない。

この記者は「東京ブラックホール論」にやたらと噛みついているが、人口戦略会議の公表資料を読めば、「ブラックホール型自治体」とは人口の自然増減と社会増減の数値に基づいた分類の一つに過ぎず、東京都をことさら非難したものではない。

日本全体の出生率低下と東京都との関係だが、東京には「若い女を全国から吸い寄せるパワー」と「女を晩婚化・非婚化(生涯未婚化)させるパワー」があるので、日本全体の出生率が下がってしまうわけである。合計出生率の長期的低下の主因が晩婚化・非婚化(生涯未婚化)であることは周知の事実なので、少子化を議論する際に「東京都の有配偶出生率は高い」と力説されても、それがどうしたとしか言いようがない。

付記

👇左端の橙マーカーが東京都。東京都の合計出生率と標準化出生率は47位(最下位)だが普通出生率は10位になるのは人口構成が若いため。

厚生労働省
厚生労働省国立, 社会保障・人口問題研究所『人口問題研究』
標準化出生率は2022年全国人口標準

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