大学英語試験と日本のフィリピン化

11月5日に衆議院第一議員会館で行われた第2回MMT国際シンポジウム「MMTから考える日本経済の処方箋」での、柴山桂太(京都大学大学院准教授)の講演「MMTは新自由主義を超えうるか」の資料が公開されていたので、MMTとは関係ない二点について取り上げる。

人口の一極集中

一点目は川端祐⼀郎(京都⼤学⼯学部助教)提供の「人口の一極集中度」のデータから「⽇本の⼀極集中はサウジよりひどい」というものだが、これは比較がおかしい。

日本 30.03%
サウジアラビア 20.26%
韓国 19.08%

この数値から判断すると、日本は一都三県(東京都+神奈川県+埼玉県+千葉県)、サウジアラビアは首都リヤド、韓国は首都ソウルを「一極」と定義しているようである。

「サウジアラビアは砂漠だらけなので可住地に一極集中するはず」ということなのだろうが、砂漠の真ん中にあるリヤドの他、巡礼者が経由する港湾都市ジッダ、聖地のマッカ、マディーナなど人が集まる条件を備えた都市はいくつもあるので、首都に一極集中する必然性はない。従って、日本の一極集中が行き過ぎている根拠にはならない。

日本は一都三県、韓国はソウル特別市を比較するのも適切ではない。東京都とソウル特別市はどちらも面積は全国の0.6%だが、人口は東京が11%、ソウルが19%と韓国の方が一極集中である。

「一極」を首都圏に拡大しても、日本(一都三県+茨城県+栃木県+群馬県+山梨県)は面積10%に人口35%だが、韓国(ソウル特別市+仁川広域市+京畿道)は面積12%に人口50%と、やはり日本以上の一極集中である。

韓国よりも一極集中度が低いからといって日本の一極集中がひどくないことにはならないが、データは正しく使わなければならない。

大学教育

二点目が本題の大学教育で、この記事が引用されている。

日本は小中学校と高校の公的支出の割合が92%で、OECD平均の90%を上回っていたのに対し、大学などの高等教育は31%で、平均の66%を大きく下回った。

これは、日本政府が大学教育を私学や営利企業への利益誘導に利用したことの反映と言える。大学教育の質を保つためには19歳人口の減少に合わせて定員を削減すべきところを、バブル崩壊後の就職難に付け込んで、若者を「大卒資格」を得るための資格ビジネスへと誘導したのである。

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問題になっている英語試験も、一部の企業への利益誘導が目的だったことは明らかと言えよう。

宇沢弘文は教育も「社会的共通資本」の一つとしていたが、日本の構造改革とは社会的共通資本を利潤追求の対象とすることだったと言える。ロシアのオリガルヒはソ連崩壊のどさくさに紛れて天然資源を私物化したが、日本の政商は国民の構造改革への支持を利用して社会的共通資本を私物化している。民主党政権も社会的共通資本の営利化に熱心だったことも見逃せない。

社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。
社会的共通資本は自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本の三つの大きな範疇にわけて考えることができる。大気、森林、河川、水、土壌などの自然環境、道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなどの社会的インフラストラクチャー、そして教育、医療、司法、金融制度などの制度資本が社会的共通資本の重要な構成要素である。
社会的共通資本は決して国家の統治機構の一部として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件によって左右されてはならない。

安藤議員は「途上国型教育に?」と指摘しているが、それもそのはず、「改革」の目標は、日本をフィリピンのような少数の富裕層と多数の貧困層(≒低賃金労働者)の国に作り替えることだからである。日本はロシアのように国際市場に売れる資源に恵まれていないので、代わりに労働力を売ることになる。そのことは、構造改革の推進者が手配師の会社にいることが示している。

安藤議員が言及している記事はこちら。下級国民に求められるのは外国人におもてなしをする程度の英語力であり、論文を読み書きするレベルは不要である。

安倍首相は2014年1月22日に世界経済フォーラム年次会議でこのように演説していたが、この意味は、大航海時代以降にヨーロッパ人が植民地を彼らの都合に合わせて作り替えたように、安倍首相が日本をグローバル資本の都合に合わせて作り替えるということである。安倍首相が日本の大衆の側ではなく、グローバル投資家の側に立っていることは明白である。

日本はこれから、グローバルな知の流れ、貿易のフロー、投資の流れに、もっとはるかに、深く組み込まれた経済になります。外国の企業・人が、最も仕事をしやすい国に、日本は変わっていきます。
そのとき社会はあたかもリセット・ボタンを押したようになって、日本の景色は一変するでしょう。

日本人の多数が賛同している構造改革=新自由主義をMMTが超えられるかは定かではない。

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