税金は「財源確保の手段」の一つ

中野剛志の解説が例によって誤りだらけなので指摘する。

MMTのそもそもの間違いは、統治者が通貨を発行していた昔と同じく、現代でも政府が(事実上の)通貨の発行者だとしていることにある。中央銀行は政府の通貨発行部門を形式的に分離独立させたもので、政府と中央銀行は事実上一体で「統合政府」を形成しているという理解である。

そもそも、税の考え方が間違っているんです。これまで、税金は、政府の支出に必要な財源を確保するのに不可欠なものだと考えられてきましたが、MMTによれば、これがそもそもの間違いなんです。
なぜなら、前に説明したとおり、自国通貨を発行できる政府は、原理的にはいくらでも国債を発行して、財政支出ができるからです。そのような政府が、どうして税金によって財源を確保する必要があるんでしょうか? そんな必要はないんです。

しかし、そうではない。現代の通貨システムは

●銀行等の預金取扱機関が非銀行部門への信用供与で銀行預金を発行する。
●中央銀行は各銀行の預金の上位互換の現金(中銀預金を含む)をeligible marketable assetsを裏付けとして発行する。

という全く異なるものに進化している。日本など国債発行残高が多い国ではeligible marketable assetsの大部分が国債や政府発行の短期証券であるため、「統合政府」が現金を発行して支出に充てるself-financingに見えないこともないが、そうではない。

政府は昔のような現金の発行者ではなく、預金と交換された現金を受け払いに使う利用者である。従って、民間の企業や個人と同様に、支出に先立って稼ぐ(徴税)か借りる(国債発行)ことで通貨を調達する必要がある。借りられるのは稼げるからであることを考慮すると、財源の「主」は税、「従」は国債になる。

政府は徴税する前に支出して、国民に通貨を渡していなければならないということになります。国民に通貨を渡す前に、徴税することはできないからです。つまり、税を財源に政府支出をするのではなく、政府支出が先にあって、徴税はその後だということです。これを、MMTは「Spending First」と表現します。「支出が先だ」というわけです。

納税に用いる現金は政府が発行したものではないので、「政府は徴税する前に支出して、国民に通貨を渡していなければならない」ことにはならない。「Spending first」は誤りである。

政府が予算執行するとき、政府は、まず政府短期証券を発行して日銀に買わせて、財源を賄っています。そして、徴税は事後的な現象です。実際、確定申告を行うのは会計年度が終わったときですよね? つまり、実務上も、集めた税金を元手に政府が財政支出しているわけではないんです。

これ(⇩)は財務省『債務管理リポート2019』の解説だが、

政府短期証券(Financing Bills、略称:FB)は、国庫金の短期の資金繰りのために、また特別会計の一時的な資金不足のために発行することができます。
政府短期証券は、原則として公募入札により市中発行されています。
なお、公募入札において募集残額等が生じた場合及び国庫に予期せざる資金需要が生じた場合には、日本銀行が例外的に政府短期証券の引受けを行う仕組みになっています。
この場合、日本銀行が引き受けた政府短期証券は、その後の公募入札の収入により、可及的速やかに償還することになっています。

政府短期証券は1999年度から原則として市場での公募入札になっており、「政府は、まず政府短期証券を発行して日銀に買わせて、財源を賄っています」も事実ではない。MMTは"operational realities"に基づいていることを強調するが、日本のMMTerは日本の制度にも詳しくない。

信用貨幣論では「貨幣は貸出しによって創造され、返済によって消滅する」ことになりますから、徴税によって政府に貨幣が戻ってきたときに、貨幣は消滅します。実際に、徴税された金額と同額の貨幣供給量が減ることになりますよね? つまり、政府が負債を増やすことで貨幣供給量は増えて、政府が徴税することで貨幣供給量が減るわけです。

徴税とは民間部門の預金が現金と交換されて国庫に入ることを意味する。貨幣は財政支出されるまでは国庫で待機しているので消滅しない。消滅するのは預金取扱機関が保有する国債の償還に充てられる場合である。

民間経済が成り立つためには、取引や貯蓄など、納税以外の目的で流通する貨幣が存在していなければなりません。つまり、貨幣をすべて税として徴収せずに、民間に残しておかなければならないんです。
ということは、「財政支出>税収」の財政赤字でなければ通貨が流通しないということになります。

高度成長期の日本は財政黒字の期間が長かったが、市中の通貨量は急増し、民間経済も飛躍的に発展していた。経済活動で使われる貨幣の大部分は民間銀行が民間部門向けに発行するものなので、財政赤字でなければ民間経済が成り立たないことにはならない。

中野の通貨システムの理解は完全な誤りなので信じないように。

補足

●個人は必ず死ぬ。
●企業はゴーイングコンサーン(継続企業の前提)とされているが、倒産する(=死ぬ)可能性がある。

個人と企業には「死んで借入金を返済できなくなるリスク」があるので、借入額が増大すると信用リスクと借入金利も上昇して借り入れが困難になる。

しかし、国家(政府)が「死ぬ」可能性は事実上無視できるので、償還期限が来た国債は借り換えを繰り返すことで、完済を半永久的に先送りできる。そのため、国債残高の増大は信用リスクと金利の上昇に直結しない。金利が上昇するのは国債発行がインフレリスク上昇につながる時である。

企業はゴーイングコンサーンだが「不死」ではないことが政府との根本的な違い。

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