MMTのケルトンのプロパガンダを検証する

MMTのイデオローグのステファニー・ケルトンのプロパガンダを批判的に検証する。

これがMMTの大嘘の始まりである。MMTは現行制度と架空の制度を混同させる論法を巧みに用いるので、知識が無い人は簡単に誘導に引っかかってしまう。なお、MMTでは中央銀行は政府の一部として扱われるので、政府が中央銀行から直接に信用供与されることは「借入」ではなく、政府による通貨発行とみなされる。

日本政府の銀行、つまり日銀が貨幣を創造するというのがその答えだ。
日本政府は主権通貨(円)の「発行者」であるため、コロナ危機からの景気回復を支えるのに必要な財政支援策をすべて「賄える」だろうか、と心配する必要はまったくない。必要だと思う分だけ支出を確約できる。資金が枯渇することはありえない。また、必要な支出を賄うために徴税する、あるいは誰かから日本円を借り入れる必要も一切ない。

現行制度を前提にすると、日本政府は通貨の「円」を定めているが、少額の貨幣を除いて発行していないので「発行者」ではない。また、日本銀行は政府には直接信用供与しない(通貨を創造して貸さない)ので、政府は民間から徴税または借入しなければ必要な支出を賄えない。日銀が創造する通貨(日銀当座預金と銀行券)は、民間銀行が創造した預金を流通可能にするためのもので、財政支出をファイナンスするものではない。

個人が銀行口座から現金を引き出すことが「日銀からの資金調達」ではないように、国債発行によって日銀にある政府預金口座の残高が増えることも、政府が日銀から資金調達したことを意味しない。政府に貸したのは日銀ではなく国債を消化した投資家(主に銀行や保険会社等の民間金融機関)である。日銀が既発の国債を流通市場から買い入れることも、政府が日銀から資金調達したことを意味しない。

この誤った思考に基づいて、日本政府は1997年、2014年、2019年に消費税率を引き上げた。そのたびに消費支出は急激に落ち込み、売り上げは急減し、経済はマイナス成長に陥った。

消費税率引き上げ前後の駆け込み需要と反動減を、通常の意味での景気後退と同一に扱うことは適切ではない。

グラフの赤マーカーは引き上げられた四半期と月だが、2014年の引き上げ前後では失業率の低下と就業者数の増加が続いていたことから、景気後退に陥っていたとは言えない。1997~1999年の景気後退の決定的な原因は97年11月に発生した金融危機であり、消費税率引き上げではないことも(素人以外には)常識である。

画像5

画像5

画像5

画像5

ルールを変更して、政府が通貨発行するか、日銀からゼロコストで無制限に通貨を調達できるようにしても、このようなこと(⇩)は非現実的である。

それに加えてMMTは、日本政府のような主権通貨の発行者は増税によって歳入を増やさなくても、医療や年金のコストを必ず賄えることも示している。
教育、インターネット環境、病院、公的医療保険に投資することもできる。重要な製造施設を国内に呼び戻し、サプライチェーンを冗長化することもできる。次の感染症流行への備えを固めることもできる。研究機関、持続可能な住宅、電力供給網をはじめさまざまな分野に投資し、すでに進行している気候変動危機への対策に着手することもできる。いずれも経済回復のための国家戦略の一部になりえる。

GDPギャップが埋まって完全雇用が達成されるまでは、政府は通貨を発行して上記のような社会保障や投資支出を増やせる。しかし、供給力の余剰がなくなれば、ある分野の支出を増やすためには同額の増税が必要になる。MMTは税金は財源ではないことを強調するが、就業保証プログラム(JGP)によって常に完全雇用を保つと、事実上、税が財源になってしまうのである。

政府支出の制約となるのは、つねにインフレだ。

MMTでは政府は通貨をゼロコストで無尽蔵に調達できるが、支出額を増やしても財・サービスの供給が増えないので価格が上がるだけの状況になれば、通貨発行と支出を抑える必要がある。

一方、現行制度では、国債増発→財政支出がインフレを昂進させるだけと予想される状況では、国債金利が上昇するので国債発行と財政支出にブレーキが掛かる。現行制度はインフレの制約を資金調達の制約に置き換えているだけで、究極的な制約が財・サービスの供給力であるという本質はMMTと同じである。

財政赤字と政府債務を制約要因として扱ってはならない。

これはその通りで、財政赤字が大きいか小さいかは、その時点の民間需要の強さを考慮に入れなければ判断できない。大きければ需給逼迫の予想→予想インフレ率上昇→金利上昇となるはずなので、金利を見て判断すればよい。

また、政府は永続的存在(going concern)で、かつ徴税権に支えられた安定収入があるので、利払いが問題なく続けられる限りは元本は借り換えを繰り返して完済をいつまでも先送りできる。財政の持続可能性と関係するのは利払費であり、政府債務の大きさには直結しない。

画像5

日本の国債金利と利払費(の対税収比や対GDP比)は危険水準には程遠いので、財政支出を拡大する余地は十分にあると判断できる。ケインズがローズヴェルト米大統領に進言したように、国債発行→市中消化→財政支出拡大すればよいだけの話である。

総購買力の増加によって生産を刺激することが、物価上昇の正しい方法であり、その逆ではない。
このように、「回復」の初期段階における主要な原動力として、租税を通じての既存所得からの単なる移転ではない、公債によって資金調達された政府支出の購買力の圧倒的な力を、私は強調したい。実際、政府支出に比肩しうるような手段は存在しないのである。

最後になるが、MMTのイデオローグが唱えるGreen New Dealのような大規模な財政支出のためには、大増税と「超大きな政府」が必要になる。MMTはマルクス主義→新左翼→Progressiveの系譜の左派イデオロギーなので、社会主義に似るのは必然なのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?