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中野の財務省批判の混乱

中野剛志が恒例の財務省批判をしているが、怒りに任せて書き殴ったようで論理が詰められておらず、説得力を欠いている。

財政運営の積極性を示すデータは、言うまでもなく「財政支出額」である。政府債務残高ではない。

不況による税収減で政府債務が増大しても、政府支出をいっさい拡大しなければ、それは「積極財政」とは言わない。これは、「積極財政」の定義の問題である。

これの問題は、租税収入(ここでは歳入の合計と等しいとする)や財政赤字、インフレ率との関係を無視していることである。

名目GDPが100の二つの国AとBがあり、Aは高インフレで租税が自然増収中、Bは名目・実質ゼロ成長で税収も停滞中とする。翌年度にAは自然増収分を支出に充て、Bは景気対策として減税する。

A:税収50・支出50(均衡財政)→税収60・支出60(均衡財政)
B:税収20・支出20(均衡財政)→税収15・支出20(財政赤字)

中野の定義ではAが積極財政をしているが、経済学的には財政政策を拡張的にしたのはBである。この例からも、財政支出が増加する「積極財政」が必ずしも景気刺激的ではないことがわかる。

信じがたいことに、財務省は、「債務残高」ではなく、「債務残高/GDP」と実質GDP成長率の相関関係を見ているのだ。
そんな相関関係を見ることに、いったい、何の意味があるというのか。

あまり意味がないことは確かだが、債務残高はこれまでの財政赤字の累積なので、全く意味がないとは言えない。

もはや言うもバカバカしいのだが、債務残高をGDPで割った値は、GDPが大きくなれば小さくなるに決まっているではないか。

👆はどういう意味なのか不明。

それは、経済評論家の三橋貴明氏が明らかにしている。彼はブログで、OECD諸国の政府債務残高と実質経済成長率の間には正の相関関係があるという、財務省にとってはまことに不都合なデータを示したのである。

この相関関係にもあまり意味がない。GDPが100の国AとBがあり、政府債務をAが10→30に、Bが100→200に増やした場合、Aは3倍、Bは2倍なので「Aの方が債務を増やしている」と判定されてしまうためである。

基礎的財政収支について同様の国際比較を行った結果👇は無相関。つまり、財政赤字と実質経済成長率は正の相関関係にはない。

IMF「World Economic Outlook Database」より作成
Advanced economiesの33カ国、左端が日本

これについては、すでに朴勝俊・関西学院大学教授による論文がある。その中で朴教授は、OECD各国の政府支出の伸び率と名目・実質GDP成長率の間に強い相関関係があることを示したばかりではなく、政府支出から名目GDPへの因果性の検討まで行っている。

例のアホグラフについては👇を。朴の「2008年以降の日本では…政府支出を増やすと総需要が増える関係にある」は、日本ではケインズ政策が効いていたというだけのことである。

この20年間で、OECD諸国の中で最も低成長であるだけではなく、最も政府支出の伸び率が低かった国、それが日本である。
要するに、財政出動が成長につながるか否かを議論する以前に、日本は、1997年から20年間のゼロ成長の中で、ほとんど財政支出を拡大していなかったのである。

財政支出の伸び率が低かったのは事実だが、

総務省「地方財政白書」, 内閣府「GDP統計」より作成
総務省「地方財政白書」, 内閣府「GDP統計」より作成

人口と物価変動を調整すると、「OECD諸国の中で最も低成長」ではない。名目成長率を比較しても意味がない(ジンバブエやベネズエラが超高成長国になってしまう)。

IMF「World Economic Outlook Database」より作成

日本経済が実質成長率低下&政府債務の累増になった主因は、中野が言う「財政支出を拡大しないから」ではなく、👇で論じているグローバル金融資本主義と企業の行動原理の転換である(成長志向から投資効率&サバイバル重視へ)。企業の行動変化の根本原因のグローバリゼーションや人口減少は財政支出拡大では変えられないので、その経済成長促進効果は限定的である。

この経済財政に関する見識のなさこそが、日本経済の「失われた30年」の真因である。そう思わざるを得ない。

👆は中野やその信者にも当てはまる。

内閣府「国民経済計算」
総務省「労働力調査」より作成

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