残念な内容~日本衰退の元凶「新自由主義」

タイトルはその通りなのだが、内容は残念な記事である。

これは、1995年から2015年までの20年間の経済成長率(名目GDP=国内総生産の変化率)の各国比較である。日本だけが経済成長を止めているのが、一目瞭然だ。しかも、日本は20年に及ぶデフレであり、このような長期のデフレは、世界にも類を見ない。第2次世界大戦後、「奇跡」と呼ばれた経済成長を成し遂げた国が、90年代半ばを境として、突然、このような無残なパフォーマンスしか出せなくなった。なぜ、こうなってしまったのか――。

まず残念なのが、藤井聡が作成したUSドル換算GDPの1995年→2015年の成長率のグラフである。

ドイツがギリシャよりも下位にあることからも説得力を欠いているが、円が著しく過大評価されていた1995年は起点として適切ではない。

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『「10%消費税」が日本経済を破壊する』の出版は2018年11月なので、2017年のデータが使えたはずだが、2017年/1997年ではなく2015年/1995年を示しているのは、「日本だけがマイナス成長」と印象付けることが目的ではないかと強く疑われる。

円の過大評価が是正された1997年や1998年を起点にしても日本の成長率が低いことは事実なのだから、意図的に日本の成長率を低く見せる「工夫」は避けるべきだろう。

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「20年に及ぶデフレ」も誇大表現である。

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2014年4月の消費税率引き上げがデフレを招かなかったことにも注目。1990年代末からのデフレの原因は1997年4月の消費税率引き上げではない。

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国民所得(要素費用表示)は、バブル崩壊後の1992~1995年に停滞⇒1996年から増加⇒1997年末から減少⇒長期停滞へと推移する。「突然、このような無残なパフォーマンスしか出せなくなった」のは、1990年代半ばではなく、金融危機が発生した1997年末である。

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その直接的原因は賃金抑圧で、その背景にある思想が新自由主義である。

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賃金・俸給が頭打ちになる一方で、

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配当は青天井である。

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2001年度→2017年度に賃金・俸給は+6.0兆円、配当は+26.1兆円で、配当/賃金の比率は5.7倍に急上昇している。

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英米発の新自由主義とは、株主利益の最大化を目的とする「カネがすべての金融資本主義」である。

民営化、自由化、規制緩和、自由な資本移動、関税障壁の撤廃などは、株主を儲けさせるための世界的な手段となっている。
大企業の経営者は増大する金融資本主義の圧力にさらされ、株主を優先することによって、大企業は従業員に対して雇用の安定や年功序列制度を確保した上で、彼らの利益を考慮に入れるということができなくなってしまった。
グローバル化された企業は、これまで活動してきた出身国社会に対する帰属意識を失い、企業市民としての責任感を喪失する。長期的に持続可能でないとしても、株式市場の圧力の下、高い収益率を維持するために、生産性のゆとりを求め、世界中をさまよわなければならないのである。
資本に対しては減税、労働に対しては増税。企業に対しては減税、サラリーマンに対しては増税。すなわち、国家もまた、金融資本主義のさらなる強化に加担しているのだ。

日本経済団体連合会の中西会長(日立製作所)の「終身雇用は限界」「消費税率引き上げを歓迎」などの発言は、大手製造業が金融資本主義に従うようになったことを示している。そのことはデータからも裏付けられる(⇩)。

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橋本龍太郎が1996年11月に指示した金融ビッグバンによって日本企業が「社会に対する帰属意識を失い、企業市民としての責任感を喪失」したことが日本衰退の元凶なのだが、中野は新自由主義を「インフレ対策」に矮小化しているために、本質からかけ離れた論旨になっている。この論法だと、インフレになれば新自由主義が「正論」になってしまう。

なぜ日本経済は、成長しなくなったのか。
答えは簡単である。それは、政府が「デフレ下におけるインフレ対策」という愚行を続けてきたからだ。お陰でデフレが長期化し、経済成長もしなくなった。当然の結果であり、何も不思議なことはない。

中野は新自由主義の本質を知らないはずがないのに、いつまでインフレ/デフレや財政出動に議論を矮小化させるつもりなのだろうか。

「新自由主義の本家の英米は日本のように衰退していない→新自由主義は日本衰退の元凶ではない」という反論が予想されるが、これについては下の記事で考察している。


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