銀行の「預金いらない」の背景

この記事の銀行と通貨システムの記述は誤りで、銀行は「預金として集めたお金を企業や人に貸して利息をもうける」のが業務ではない。

金融機関は預金として集めたお金を企業や人に貸して利息をもうけるのが収益の柱だったが、低金利で利ざやは激減している。その半面、マネーロンダリング(資金洗浄)対策などで預金の管理費が増加した。いまでは「預金が重荷」(大手行関係者)と、銀行が預金に尻込みするようなありさまで、費用を無視してでも預金集めに奔走した従来のビジネスモデルは曲がり角を迎えている。
マイナス金利は、銀行などが日銀に預ける「当座預金」の一部に、利子ではなく0.1%の手数料を課す政策だ。銀行は当座預金に資金を眠らせたままだと損をするので、貸し出しを増やせると日銀はもくろんだ。全体的な金利水準の低下は確かに進んだが、企業への貸し出しは想定通りに増えていない。貸出収益が改善しない中で、管理費用が増す預金の存在は金融機関の重荷となった。

銀行はどこからか入手したお金、あるいは中央銀行に預けている当座預金を又貸しするのではなく、帳簿上に信用創造した自家製の預金を貸し出している。例えば、ある人が1億円の住宅ローンをA銀行に申し込み、A銀行がその人に返済能力があると審査すれば、A銀行は1億円を信用創造して借り手の預金口座に入金する。預金は銀行の負債、対応する資産は貸出金で、A銀行のバランスシートは両建てで1億円拡大する(貸出金|預金)。

銀行預金はその銀行の帳簿上にしか存在できないので、「動かす」際には同額の中央銀行発行のマネー(現金または中銀当座預金)を代わりに用いる。

(中央銀行は銀行と同様に信用創造して当座預金を発行するが、裏付け資産は無リスク・低リスク資産に限定される。)

住宅ローンの借り手が1億円をB銀行に預金口座がある住宅販売会社に支払うのであれば、①借り手が現金1億円を引き出すか(→現金支払)、②A銀行が中銀当座預金1億円をB銀行に送金する。これにより、A銀行のバランスシートは両建てで1億円縮小する(現金または中銀当座預金|預金)。

銀行は現金引き出しや他行への送金のために現金または中銀当座預金を保有しておく必要があり、調達先は大別すると❶預金者に現金を預けてもらうか他行から預け替えてもらう、❷インターバンク市場で他行から借りる、❸中央銀行から借りる、の三つある。一般的に調達コストは❶<❷<❸であることが、銀行が預金集めをしていた主な理由である。

しかし、日本銀行のゼロ金利政策と量的緩和によって銀行の日銀当座預金口座には必要以上の超過準備が積み上がっているので、管理費用や金利を支払ってまで預金集めをする意味がなくなってしまった。

さらに、日銀が超過準備の一部に0.1%のマイナス金利を適用することは、銀行の資産の一部が不良化することを意味するので、銀行経営を圧迫する政策ということになる。銀行の取り得る対応策には㊀収益悪化を甘受する、㊁手数料引き上げなどでマイナス金利のコストを預金者に転嫁、㊂損失を埋め合わせるために高リスクの貸出を増やす、があるが、現時点では㊀が主流のようである。

そもそも、金融緩和とは、銀行のコストである現金・中銀当座預金の調達コストを引き下げることで銀行の貸出金利低下(→借入増加)を促すものであり、超過準備を積み増すことや、銀行が保有する中銀当座預金を不良資産化させることではない。実体経済にも益が無いマイナス金利政策は早急に終了させるべきだろう。

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