MMTの教祖ビル・ミッチェルの世界革命論

MMTの教祖ビル・ミッチェルが来日した際の講演がYouTubeに公開されたが、日本経済に関する事実認識が誤っており、ありがたく聞くような内容ではないことが改めて確認できた。

9:25~では実質GDPの対前年同期比のグラフから、1997年と2014年のマイナス成長をSales Tax Hike(消費税率引き上げ)によるものと説明しているが、1997年はQ2とQ3はプラス成長で、Q4から7四半期連続でマイナスに転じている。この原因は11月の三洋証券のデフォルト→北海道拓殖銀行→山一證券が経営破綻した金融危機で、4月の消費税率引き上げではない。1997-1998年の大不況の原因を知らないようでは日本経済を論じる資格は無い。

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下のグラフの赤マーカーは1997年Q2と2014年Q2、紫線は2011年Q3から2019年Q3を結んだものだが、2014年は景気後退というよりも、無能な民主党政権から「日本を取り戻す」安倍政権への交代によるマインド好転+消費税率引き上げに向けた駆け込み需要による上振れからトレンドに回帰しただけと見るのが妥当である。

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消費税バカ、あるいはZSS(全部消費税のせいだ)論者には、消費税以外の要因が全く目に入らないらしい。

46:42~では日本の女の労働力人口比率が低いと言っているが、これも事実誤認で、近年の急上昇により、北欧と東欧を除いた先進国中では低い部類ではなくなっている。25~64歳ではアメリカやオーストラリアを上回っている。

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48:21~や

First, a nation has to ensure its productive resources are fully utilized - full employment.

下の薔薇マークの動画の1:59:51~

More to work than income.
所得より多くの労働が必要

では完全雇用が目標と強調しているが、そうなると都合が悪いのは、日本はほぼ完全雇用になっていることである。MMTでは失業者を政府が最低賃金で全員雇うJob Guarantee Programを国民の厚生を高めるための最重要政策ツールだが、現在の日本では、政府の代わりに民間企業が低賃金で多くの人を雇う民間版JGPが実践されているといえる。

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現在の日本経済は低インフレ+低失業率の理想的な状態にあるので、政府が労働市場に介入する必要はないと言えてしまう。MMTerはunderemploymentは減っていないと反論するかもしれないが、JGPも最低賃金なので五十歩百歩である。

ミッチェルは、国債残高と中央銀行の国債保有が激増しても低インフレ(デフレ)・低金利が続く状況はMMTでなければ説明できないかのように語っているが、これも誤りである。

20:12~の「政府は通貨の発行者なのでデフォルトリスクはない」の前半はMMTの根本的な誤りだが、後半は正しい。

MMT is a lens  - enhances understanding of the capacity of the currency-issuing government.

現実の通貨システムでは政府は民間部門と同様に、民間銀行が発行した預金通貨を調達して支出の財源にしているが、政府は民間と違って永続的存在(going concern)であり、確実な収入(←徴税権)もあるので、信用リスクはゼロとみなせる。従って、MMTでも現実の通貨システムからでも「政府にデフォルトリスクはないが、赤字国債の大量発行によってインフレを昂進させてしまうリスクはある」という結論は同じになるのである。

薔薇マークの動画の1:33:15~では、ジンバブエがハイパーインフレになった原因は供給の激減で、財政収支は大きな黒字だったと言っているが、これも誤りである。

下の記事で既に検証しているが、中央政府の税収激減による財源不足を中央銀行が直接民間部門に資金供給して穴埋めしたことがスタグフレーションの火に油を注ぐことになり、ハイパーインフレへと発展した。「統合政府」で見れば財政収支は大赤字だったのである。

1:24:37~の民間部門の試行錯誤よりも政府の計画を重視する考え方や、

Fiscal policy is direct and more predictable.
財政政策は直接的で予測やすさがある

全員が働くことに価値を置くことは、MMTの源流が社会主義経済や総力戦体制にあることを示している。両方の講演の終盤で"Just Transition"について熱く語っていることも、MMTがマルクス主義などと同じくユートピアを求める進歩主義思想であることの証である。

MMTの教祖たちは、国家が通貨を発行する力で世界を革命したいのである。

この程度の内容を有難く聞きに行く人が沢山いるのはミッチェルやケルトンが白人だからであり、日本人のキモいおっさんだったら誰も相手にしないのではないだろうか。

付録

23:15~で日本の一極集中度は世界二位でサウジアラビアより酷いと言っているが、

このデータの扱い方がおかしいことは既に検証している。

京都大学(+立命館大学)は日本のフェイクニュース工場になったようである。

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