人口減少が賃金上昇を抑制する

この「生産性が上がらない→賃金を上げられない」との見方は物事の順序を逆に捉えている。賃金を上げないから生産性向上のインセンティブが働かなくなっているのである。

経済学的に見た場合、賃金が上がらない理由はたったひとつしかない。それは日本企業の生産性が低く、人件費を増やすだけの高い付加価値を獲得できていないことである。この部分が改善されなければ、決して賃金は上がらない。

これまで賃金に関しては、「企業は儲かっているにもかかわらず賃金を上げていない」との見解が中心であり、そうであるが故に、企業に対して利益をいかに還元させるのかという観点で議論が行われてきた。しかし、上記で述べたように、この認識は誤りであり、日本企業はそもそも賃上げの原資を捻出できていない状態にある(日本企業の最終利益が増えていたのは、人件費の削減に加え、法人減税によって税負担が減ったことが要因であり、あくまで見かけ上のものに過ぎない)。

賃金が上がらない理由が、企業の低収益にあるのだとすると、単純に賃上げ税制を行っても十分に効果が発揮されないことは容易に想像できる。

これら👆はデータによって否定される。付加価値のうち株主資本の取り分は2000年代から激増している。

財務省「法人企業統計調査」より作成
全規模・全産業(除く金融保険業)
財務省「法人企業統計調査」より作成
全規模・全産業(除く金融保険業)

税引前の収益率も高度成長期並みの水準に上昇している。

財務省「法人企業統計調査」より作成
全規模・全産業(除く金融保険業)

日本企業が賃金を上げなくなったのは、人口減少のために国内市場の量的拡大(実質成長)が見込めなくなったという環境変化に適応したためである。

内閣府「企業行動に関するアンケート調査」

このような環境で生き残るためには固定費、特に人件費を抑制することになるが、賃金上昇の停止は技術革新と設備投資による生産性向上のディスインセンティブになる。

賃金抑制とその結果としての生産性の停滞は、個々の企業が環境に適応したものであることを認識する必要がある。


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