日本版MMT学者の誤り

日本でMMTに詳しい学者ということになっているらしい井上が

このようなツイートをしているが、これは正しくない。

現代では財政資金の受け払いはペーパーレス化されて中央銀行の帳簿上で処理されるが、ここではイメージしやすくするために、政府は民間と直接に現金で受け払いしているとする。

日本も採用している世界標準の制度では、中央銀行が政府に直に信用供与する(現金を供給する)ことは禁じられているので、政府の現金調達は「中央銀行→銀行→民間非銀行部門→政府」か「中央銀行→銀行→政府」のルートになる。

中央銀行は政府に現金を供給しない

政府は民間部門から現金を調達する

民間非銀行部門は銀行預金を現金に交換して政府に支払う

民間銀行は無リスク資産を中央銀行に質入れして現金を調達する

日本では現金の供給元は日本銀行だが、日銀は新発国債を直接引き受けないので(財政法第五条)、政府が12兆円給付するためには事前に民間から12兆円を調達しておく必要がある。調達後を基準にすると12兆円の給付によって12兆円マネーストックが増えるのは当然だが、調達前を基準にすると12兆円増えるとは限らない。

12兆円を徴税and/or銀行以外からの借入(国債発行→市中消化)で調達する場合は、

①現金12兆円が銀行から引き出される(預金が12兆円減少)
②現金12兆円が国庫に払い込まれる
③現金12兆円が国庫から民間に給付される
④現金12兆円が銀行に預け入れられる(預金が12兆円増加)

となるので、マネーストックは±0となる。

一方、12兆円全額を銀行の国債引き受けで調達する場合は①がなく②から始まるので、マネーストックが12兆円増える。井上は「12兆円全額を銀行から借りる」という特殊なケースを一般化する誤りを犯している。

国債を市中銀行が引受けた場合には、銀行の対政府信用創造が行われるわけで、その時点で財政揚げ(=MS減)とはならない。そして政府はこれによって調達したオカネを、目的に応じて民間向けに支出し、これが個人・企業の預金となって銀行に入ってくる(財政払い超)。この結果、通算すると、MS総量は市中銀行の国債引受け分だけ増えることになる。これが個人・企業等非銀行による国債引受けのケースとの決定的な違い。

反緊縮派に多い誤解だが、政府支出によってマネーストックが増えるのではなく、銀行が国債を引き受けてmoney creationするから増えるのである。

より詳しくは下の記事を参照。

下はFedの解説だが、日本も同じで、日銀が流通市場から国債を買い入れることは政府支出のファイナンスではないことに注意。現金の供給先は国債の売り手の金融機関(通常は預金取扱機関)であって政府ではない。

The Federal Reserve purchases Treasury securities held by the public through a competitive bidding process. The Federal Reserve does not purchase new Treasury securities directly from the U.S. Treasury, and Federal Reserve purchases of Treasury securities from the public are not a means of financing the federal deficit.
In financing the federal deficit, the federal government borrows from the public by issuing Treasury securities, which are sold at auction according to a schedule that is published quarterly.

大久保勉参議院議員の第189回国会質問第五六号「財政法第五条及び日本銀行法に関する質問主意書」に対する答弁書より。

財政法(昭和二十二年法律第三十四号)第五条本文においては、「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。」とされており、これに抵触する日本銀行による公債の引受け等については禁じられているが、日本銀行が自らの判断により、金融政策の目的で、市場で流通している国債を買い入れることは、同条に抵触するものではないと考えている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?