ハイパーインフレーションの誤解

生半可な知識に基づく煽動的な経済漫画を描いている漫画家が、今度はハイパーインフレーションについてデマを拡散している。

ECBの"PRICE STABILITY: WHY IS IT IMPORTANT FOR YOU ?"にあるように、
ハイパーインフレには統一された定義はない。

A situation in which the rate of inflation is very high and/or rises constantly and eventually becomes out of control is called "hyperinflation".
Although there is no generally accepted definition of hyperinflation, most economists would agree that a situation where the monthly inflation rate exceeds 50% can be described as hyperinflation.

よく用いられるのがCaganの「1か月で物価が1.5倍以上」で、このペースが1年間続けば130倍になるが、1年間続かなくてもよいので、この漫画家は正しくない。なお、IFRSの定義では「3年間で物価が2倍以上(年率26%以上)」である。

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日本の狂乱物価のピーク時には消費者物価が3年前の1.6倍弱になった。

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ハイパーインフレは供給力が圧倒的に不足しなければ起こり得ないというのも正しくない。

例えば、日本政府が全国民に毎月100万円を物価スライド方式で給付し続けると宣言したとする。これは円の「希薄化」によって貨幣の三機能の一つの「価値の保存」が失われることを意味するので、価値を実物や外貨に移し替える動きが活発化し、それがインフレを昂進させることになる。

庶民がインフレを既成事実と見なし、個人個人バラバラにインフレ・ヘッジをした場合、個人個人にとっては、インフレ切り抜け策のように見えるが、実は、それが成功すればするだけ、全体としてはインフレを助長してわが身にいっそう大きい困難がふりかかってくるだけであることを知らなければならない。なぜならば、インフレ時に投機に成功するということは、その投機対象が平均的な価格上昇率よりも、いっそう高い値上がり率を示したからにほかならないからである。個人のインフレ・ヘッジは、社会全体のインフレ昂進への途であることを知らねばならない。

あるいは、政府が徴税よりも「紙幣増刷(→インフレ税)」による財源調達を選択しても同様のことが起こり得る。財政規律の破綻もインフレ暴走の原因になり得るということである。

レーニンはこう語ったと伝えられている。資本主義を破壊する最善の方法は、通貨を堕落させることだと。政府はインフレを継続することで、密かに、気づかれることなく、国民の富のうち、かなりの部分を没収できる。

現在の日本では生産能力の壊滅も財政規律の破綻も起こりそうにないのでハイパーインフレは杞憂だが、だからといってデマを拡散していいものではない。

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