MMTが凄いのは、理論の根幹が明明白白な嘘なのだが、それを「嘘も繰り返せば定説になる」と強行突破している点にある。
その嘘とは、政府の支出は中央銀行の通貨発行(newly-created money)によって賄われるので事前の財源調達は不要、徴税と借入は財源調達ではなく市中から通貨を回収する手段、という常識とは正反対のものである。政府の支出は中央銀行の対政府信用供与(政府の中央銀行からの直接借入)とワンセットで、国庫に入る納税金や国債の代金は自動的に借入の返済に充てられる。
MMTの「レンズ」を通すと、経済の仕組みがこれまでとは全く違って見えるようになる。
Fiat moneyの発行はペーパーレス化(電子化)された現代でも昔風に"print money"と呼ばれることが多いが、MMTの教祖たちはこの表現は不正確で誤解を招くとして、「キーボードを叩いて市中銀行の預金残高を増やす」を好んで用いる。
現実の財政・通貨システムがこのような仕組みなら、1日の終わりの国庫金の残高(closing cash balance)はほぼゼロで推移するはずで、2020~21年のコロナ禍での大規模な財政支出に際しても、政府は事前に国庫のキャッシュ残高を増やす必要はなかったことになる。
しかし、現実はそうではない。アメリカ政府は2020年3月末から財務省証券を発行して国庫(TGA)のキャッシュ残高を激増させ、逆に2021年には民間への大盤振る舞いによって急減させている。
この👇元Fed職員が言うように、政府支出はその都度の中央銀行の通貨発行によって賄われるself-financingではない。連邦政府が対民間支出する際に、Fedは支出先の預金口座がある銀行の預金残高を増やすが、その数字(通貨)はTGAから振り替えられたもので新たに発行されたものではない。徴税や借入によって国庫金を調達していなければ政府は支出できない。
"Obviously untrue"なのは日本も同じで、財務省が日本銀行に「10兆円を支出するのでよろしく」と指示すれば、日銀が(10兆円の対政府信用と両建てで)10兆円を即座に発行して各市中銀行の当座預金口座に振り込む仕組みではない。民間向けに支出される10兆円はnewly-created moneyではなく、政府の預金口座から振り替えられたものである。
あまりにも明明白白な嘘なので、MMTは金融関係者には全く相手にされていない。信者の大半は金融に関心を持った意識が高い素人で、この👇ような傾向がある(一方、教祖は話が異様に冗長)。
MMTはマルクス→新左翼系の経済思想なので、セクト的になるのは不思議ではない。
補足
MMTの「政府は通貨の発行者」は事実ではないが、その系の「政府の信用リスクはゼロ」は事実なので、MMTerは「国債残高が激増してもインフレ率や金利は上昇しない」と正しく予測できた。この「奇跡」が信者獲得には有効だったようである。