「日銀はカネを刷れ」の間違い

また藤井聡と中野剛志が間違いを拡散している。

まず藤井だが、動画の5:24~で力説している内容は「八っつあん、熊さんのレベルの最もナイーヴな誤解」あるいは出鱈目である。

よその国はね、中央銀行でガー金刷って、はいって言って配ってるんですよ。元々、広い意味で言うと政府がカネ作っているでしょ。お金って政府が作ってるもんなんですよ。
馬鹿かお前たちと。ちゃんとお金を自分で作って配りなさいと。日銀がカネを100兆くらい刷ってですね、それでバーと配ったらそれでええだけなんやと。
最もナイーヴな、そして世間に結構広く流布している誤解から。
誤解①「景気が悪い。もっとオカネ、つまり日銀券を印刷して、世間にジャンジャンばら撒けばいいのに。日銀はなにをしているか」
これは全く八っつあん、熊さんのレベルであるが、実は、失礼ながら、他のことについてはかなりの知識人と目される方々が、これに近いことを言われるのを結構耳にする。

現代の通貨システムでは、個人や企業が中央銀行が発行するカネ(現金)を入手するルートは「銀行預金との交換」であり、直接信用供与されることはない。日銀がカネを100兆円刷っても、銀行預金が100兆円増えていなければ企業や個人の手には渡らない。

「今の信用経済では、オカネとは、殆どそのまま預金通貨のことである。(後に述べるように)現ナマは、即時決済、少額決済などの必要に伴って、預金が一時的に変身、振り替わったもの、と考えればよい」

これは政府も本質的には同じである。中央銀行に預けられている政府預金は「ペーパーレス化(電子化)された現金」なので、政府は支出するためには「民間から預金を徴税または借入によって調達→現金と交換」によって財源を確保しなければならない。MMTでは政府はお金を作る発行者とされているが、実際は民間銀行が発行した預金の利用者である。「他国は中央銀行が発行したカネを国民に配っている」も事実ではない。

「政府は国債を増発せよ」と主張すればよいものを、わざわざ「日銀はカネを刷れ」と表現することの狙いは不明だが、国民をミスリードする有害な論説であることは確かである。

中野も同様で、政府は支出のために自国通貨を発行していない。

何度でも繰り返しますが、自国通貨を発行する日本政府は、デフォルトのリスクはゼロです。

デフォルトリスクが事実上ゼロなのは、政府は永続的存在(ゴーイングコンサーン)かつ強力な収入源(←徴税権)を持っているためである。そのため、償還期限が来た国債は、その時点のインフレリスクを反映した金利で借り換ることで、半永久的に完済を先送りできる。賦課方式の年金の給付債務が次世代→そのまた次世代→・・・と引き継がれていくことと似ている。

この点については下の動画の4:00~5:15の説明は正しい(このロジックを理解すればMMT教の信者になる必要はないのだが)。

国債は借換債で償還すればよいので、増税は必要ではない。

当然ながら、財政にも限界があるため、追加予算を投じる前提として現在の問題を終息させる出口戦略も不可欠です。そして今回のコロナウイルスの問題が終息して経済活動が正常化してから、国債発行で賄った財源を10年~20年という長期間、かつ追加の薄い課税で償還すればいい。その際、所得の高低などに応じて追加課税を行えば、所得再分配の効果も期待できます。危機のいまこそ、機動的に赤字国債を利用する意味がある」

現行の通貨システムでは、

政府も民間と同じく銀行預金の利用者(ただし信用リスクは事実上ゼロ)
中央銀行は銀行預金の上位互換のカネ(現金)を発行する
利用者は銀行預金との交換で現金を入手する

となっているので、財政支出拡大に必要なのは政府の国債増発であり、中央銀行が「カネを刷る」ことではない。「中央銀行がカネを刷れば不況は吹き飛ぶ」ではリフレ派と同じになってしまう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?