「MMT」に対する高井議員のあきれた見解

国民民主党の高井議員が「MMTは理論として正しいことは認めるべきだ」と
興奮しているが、確実に理解していない。

おそらく、財務省の角田主計局次長も理解していない。

理解していなくても仕方が無いのは、MMTの教祖たちが信者を集めるために、おそらく意図的にぼかした説明をしているためである。特に日本では、ケインズ的な「国債増発→財政出動」を求める反緊縮・積極財政派がMMTに飛びついたために、本来のMMTの教えとは異なる内容がMMTだと誤解されている。高井議員が信じ込んでいるのも、反緊縮派によって歪められた日本版MMTだと思われる。本家本元のMMTは「インフレ率2%になるまで国債を発行する」というような政策につながる理論ではない。

MMTを理解していない者同士の議論だが、高井議員が攻めどころを誤ったために、角田次長の守りを崩せていない。特に、これ(⇩)は世界の中央銀行の共通認識なので分が悪い。

「統合政府」は「政府紙幣」発行と同じ発想だが、政府紙幣はかつて失敗した反省がある。「通貨発行は中央銀行(日銀)が政府から独立して行うべき」というのは歴史の教訓だ。

一例として、スイスの中央銀行SNBの国民向けの説明。

The SNB has a mandate to ensure price stability, while taking due account of economic developments. Experience indicates that central banks are better able to fulfil this mandate when the state is not permitted to use money creation for financing purposes. This is in order to avoid conflicts of interest. For example, if the central bank needed to increase interest rates to ensure price stability at a time when the state required more money, the interests of the two parties could collide if the central bank were not independent of the state.

高井議員は「国債が増えても、借金が増えても金利が上がらない」ことがMMTの正しさを証明していると考えているのだろうが、国家は確実な収入源(←徴税権)がある永続的存在なので国債残高にかかわらず信用リスクはゼロとみなしてよく、調達金利に反映されるのは主にインフレリスクであることで十分に説明できる。

高井議員が角田次長のハイパーインフレによる財政破綻懸念に反論するのであれば、財政の健全性・持続可能性は国債の残高ではなく利払費で判断するべきではないか、と突っ込めばよかった。

国債を発行し続ければいつか必ずハイパーインフレを引き起こし財政は破綻する。積み木を積み重ねていけばいつか必ず倒れるのと同じだ。今は大丈夫でも将来大丈夫とはならない。

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財務省は2002年に外国格付け会社にこの(⇩)ように意見していたが、現在の利払費と金利、インフレ率は事情があまり変化していないことを示している。国債の増発余地は依然として大きい。

近年自国通貨建て国債がデフォルトした新興市場国とは異なり、日本は変動相場制の下で、強固な対外バランスもあって国内金融政策の自由度ははるかに大きい。更に、ハイパー・インフレの懸念はゼロに等しい。

MMTに基づく政策を実行されては困るのは、MMTは過去数百年にわたって進化してきた通貨システムの仕組みを完全に否定して、全く異なるものに置き換える過激な革命理論だからである。

現行制度では中央銀行は決済専用のマネーである中銀預金の金利を操作する金融政策を行うが、MMTでは金融政策は廃止され、代わりに「通貨発行→財政支出→最低賃金での公的雇用→自発的失業者ゼロ」が政策目標になる。財政支出は通貨発行で賄われるので、政府が借りるという概念は無くなり、国債は廃止される。国債廃止にはレーニンの「働かざる者食うべからず」的な考え方も反映されている(利息を資本家に与えない)。完全雇用下での財政支出=通貨発行の過剰分は税収増で吸収される。

MMTの教祖がこの教義の核心をぼかしているのは、あまりにも現状から乖離した理論なので、信者獲得には逆効果という戦術的判断ではないかと推測される。「目標はクーデタによる日本シャンバラ化」をアピールするよりもヨガ道場の方が人集めには有効であるようなものである。「もっと財政支出してもOK」なケインズ的な理論という印象での信者集めに高井議員も見事に引っ掛かっている。

MMTが「労働本位制」あるいは「最賃本位制」の社会建設を目指すマルクス主義→新左翼の系譜の革命理論であることは、下の記事で論じている。

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