ジョンソン英首相の積極財政論

イギリスのボリス・ジョンソン首相が、12月12日の総選挙で勝利したなら、経済社会を立て直すためにインフラストラクチャー、教育、テクノロジー分野への財政支出を拡大するとSpectatorのインタビューで語っている。

The remedy, he says, is ‘infrastructure and education and technology.’

金利が上昇するまでは借入を財源にする。

It’s also the backbone of his new economic policy: to borrow more, as long as interest rates are low and the cash is used to invest in infrastructure.

10年国債金利は直近では0.7%に低下しているので、財政支出の余地は大きい。

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ジョンソン首相は財務省の財政支出の評価基準が「儲かるか否か」であることに異論を唱えている。

‘The Treasury has basically looked at certain parts of the country and thought that they weren’t cash cows, from the point of view of delivering revenue,’ he says. ‘I take a different view. That this country is so underprovided for in brilliant infrastructure that you can make a good business case for many things.’

この見方は、ケインズが「国家的自給」で示したものと同じようである。「すばらしい都市の代わりにスラムを建設」が"so underprovided for in brilliant infrastructure"のことになる。

すばらしい都市の建設のために多くの資材や技術などの資源を用いる代わりに、彼らはスラムを建設した。彼らがスラムの建設を正しく望ましいと考えたのは、個別事業の評価基準からみると、その方が「ペイ」するからである。
このような自滅的な金銭収支計算と同じ考え方は生活のあらゆる分野に及んでいる。
その基準を変更する必要があるのは、個人よりも国家である。捨てるべきなのは、大蔵大臣の株式会社の会長のような基準である。

Brexitと「国家的自給」

ケインズが行き過ぎたグローバリゼーションの弊害を見て「国家的自給」を唱えたように、ジョンソン首相はBrexitを推進しているわけである。Brexitは「それ自体が目標なのではなく、他の理想が安全かつ適切に追求できる環境の創造をめざすもの」ということになる。

国家的自給という政策は、それ自体が目標なのではなく、他の理想が安全かつ適切に追求できる環境の創造をめざすものと考えるべきである。
しかし今日、労働の国際分業の利益が依然と同じように大きい、という主張には納得できない。・・・要するに、国家的自給は、多少コストはかかるけれども、われわれがそれを望むならば、手に入れることができる贅沢品となっていくだろう。それを望む十分な良い理由はあるのだろうか。

グローバリゼーションの弊害は、クルーグマンらも認め始めている。

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ケインズは「ほとんどが理想主義者で公正無私な人たちであった19世紀の自由貿易論者」についてこのように述べていたが、現実を無視して机上の空論を振り回し、多くの労働者に害悪を与えたクルーグマンのことのようである(クルーグマンは出鱈目なリフレ理論も提唱していた)。

彼らは、自分たちは賢明で、かつ自分たちだけが明晰であり、労働の理想的な国際分業に干渉する政策は、常に利己的な無知による結果であると信じていた。

ジョンソン首相に対してはこのような批判(⇩)も多いが、ケインズをレイシスト、ポピュリスト認定するような低レベルのものと言える。

日本の「スラム化」

「すばらしい都市の代わりにスラムを建設」の日本の代表例が、新東名高速道路を当初計画の3+3車線からわざわざ一部2+2車線に狭めたことである。大蔵官僚の操り人形だった橋本龍太郎首相が自滅的な金銭収支計算(B/C)を採り入れたこと、多くの日本人がそれを「無駄の削減→良いこと」と思い込んで熱狂的に支持したことが、日本のスラム化・貧国化を促進している。

猪瀬:ちょっと待て。なぜ僕が当時4車線でいいと言ったか、その意味を理解してるか? たとえば4車線にすれば、トンネルの建設コストを半分にできるからだ。
猪瀬:とにかく、費用対効果との兼ね合いは絶対に必要だ。

英米と日本

ジョンソン英首相とトランプ米大統領は国のアイデンティティを重視するケインズ派だが、安倍首相はそれと対立するハイパーグローバリゼーション主義者である。安倍首相は日本のアイデンティティを守っている規制を「ドリルの刃となって打ち破る」と繰り返し表明している(日本をぶっ壊す!)。

日本はこれから、グローバルな知の流れ、貿易のフロー、投資の流れに、もっとはるかに、深く組み込まれた経済になります。外国の企業・人が、最も仕事をしやすい国に、日本は変わっていきます。
そのとき社会はあたかもリセット・ボタンを押したようになって、日本の景色は一変するでしょう。

安倍首相の経済政策の路線が続けば、ハイパーグローバリゼーションの弊害がますます深刻化することが不可避なのだが、安倍首相はそれがTINAだと思い込んでいる。

これは日本にとって、いまは亡きマーガレット・サッチャーさんにならうなら、「TINA」だということ、There is no alternativeだということを、ご理解ください。

日本の破滅は避けられそうにない。

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