中野剛志の『矢野財務次官は何から何まで間違っている!』は間違いだらけ

中野剛志の根本的な誤りは、現行の通貨・財政制度の建付けを理解していないことにある。だから、素人には人気があっても、金融系の業界人には全く相手にされていない。

財政・通貨制度

これ👇が中野が正しいと主張する財政・通貨制度の建付けで、市中→プール、通貨→水のアナロジーを用いると、国家は無尽蔵に水を創成してプールに注げるので、支出の財源にするために徴税や借入で取水する必要はない。ただし、注水し過ぎるとプールから水が溢れてしまう(高インフレになる)ので、適宜取水して水量を適正水準に保つ、というものである。徴税と借入は水量の調整手段になる。プールの水は民間銀行の民間向け信用供与によっても増えることにも留意が要る(むしろこちらの注水量の方が多い)。

自国通貨を創造するのは国家なのだから、国家はお金を無尽蔵に出せる。これは、単なる事実だ。
国家が通貨を創造できるということは、その論理的帰結として、税によって財源を確保する必要がないことになる。
税は、確かに必要である。ただ、財源確保の手段として必要なのではない。税は、経済を調整する手段として必要なのだ。
もしインフレを抑制する手段である税をなくすと、ハイパーインフレが起きてしまう。それが、無税国家が不可能である理由にほかならない。
自国通貨を創造できる国家には、歳出の予算制約はない。いくら財政赤字が拡大しても破綻することはない。しかし、だからと言って、政府支出を拡大し続けたら、需要が供給を大幅に上回って、高インフレになってしまう。すなわち、政府支出には資金的な制約はないが、高インフレという制約があるということだ。

これはこれで論理の整合はとれているが、このような建付けで財政を運営すると、国民には不人気でコストもかかる徴税が過少になり、インフレが制御不能になる危険性が極めて高いことが歴史の教訓として得られている。そのため、現在の世界標準となっている制度は、これとは異なる論理構造、すなわち「国家は無尽蔵に通貨発行できない」を前提に構築されている。

「まず水を創成して注水」から始めるからプールから水が溢れる危険性が生じるので、現行制度では

①注水する水は主として既にプールにある水をリサイクル(まず徴税)
②不足分は民間から借入(銀行から借りると水が創成されて水量が増える)

となっている。つまり、国家は通貨のISSUERではなくUSERになる。

借入金利は予想インフレ率を織り込むので、財政赤字がインフレを昂進させると予想される状況になると債券市場で金利が上昇して借入にブレーキが掛かる。「高インフレという制約」を「資金的な制約」に置き換える仕組みである。このような安全装置を制度に組み込み、国家にフリーハンドを与えないことで、インフレ暴走のリスクを抑えている。

中野の制度では国庫には無尽蔵に金が湧いてくるが、現実の制度では調達可能額は有限なので、中野が批判する矢野財務次官の「まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてきます」の方が正しい。

自国通貨であっても国家はお金を無尽蔵に出せないので、デフォルトはあり得る。

Sovereign defaults on local currency debt are more common than sometimes assumed. Since 1960, 32 sovereigns have defaulted on local currency debt.

デフレ

後半も事実認識を誤った煽動的な内容になっている。

過去四半世紀の日本経済の最大の問題は、デフレと言ってよい。
日本は、過去二十年以上、デフレという異常事態にあったのであり、平時であったことなどない。

日本のデフレは20年以上も続いていない。世界金融危機後のスイスも物価が上がらなくなっているので、「欧米に類を見ないデフレ」も事実ではない。

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日本の競争力の低下は、欧米に類を見ないデフレのせいで、企業が技術開発や設備投資ができないからだ。そのデフレを日本政府は四半世紀も放置しているというのに、「甘美なことを続けている」とは聞き捨てならない。

情報通信機器や情報通信サービスでは激しい価格低下が続いているが、技術開発や設備投資は活発で世界的な成長産業になっている。企業にとってはわずか年率1%程度の一般物価水準の下落よりも、自社の生産と販売に関わる価格と需要動向の方がはるかに重要である。

日本企業は「デフレのせいで、企業が技術開発や設備投資ができない」のではなく、やらないだけである。史上最高益でキャッシュリッチでもやらないのは「ペイしない」と判断しているからだが、その判断の背景には

①株主資本コストの大幅上昇(大企業)←金融ビッグバン
②雇用制度改革と女と老人の労働参加により低賃金で雇用しやすくなった
③人口減少による国内市場の量的縮小が確実
④国内に設備投資するよりも海外に直接投資した方がリターンが大きい
⑤ICTでは米企業に対抗できる見込みがない(諦め)

などの構造的要因がある。これらは財政支出では解決できないので、「公共投資によって確実に需要を創出」しても焼け石に水である。物価が上がらない主因も財政が緊縮的だからではなく、企業が設備投資や固定費の増加に消極的だからで、その結果が企業部門の資金余剰の継続である。

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中野がこれを本気で書いているとすれば不勉強であり、不正確と知りながら信者を煽動する目的で書いているとすれば、批判する人物👇と同じ穴の狢になる。

ちょび髭とか生やして、まなじり吊り上げて怒鳴っているような顔には気をつけましょうとかですか(笑)。

チェックポイント

以下を主張している人物は悪質な煽動者か経済分析の能力を欠く素人なので信用してはならない。

①日本のデフレ(や不況)は20年以上続いている
②日本の経済成長率は世界最低(名目GDPやドル換算GDPでは)
③財政支出をk%増やせば名目GDPをk%増やせる

中野は①②③のすべて当てはまっている。

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ご覧のとおり、日本は最下位。しかも、日本だけがマイナス成長率を記録しているんです。おかしいと思いませんか?

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これは、OECD33ヵ国の1997~2015年の財政支出の伸び率とGDP成長率をプロットしたものです。ご覧のとおり、財政支出とGDPには、強い相関関係があることが見て取れます。
しかも、日本だけがポツンと最下位に位置しているわけです。日本が負け続けている理由は明らかで、財政支出を抑制しているからなんです。アメリカや中国に負けている理由をほかにいろいろ探してもしょうがないんです。

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