「零細企業の低賃金が経済全体に拡散する」原因

「零細企業の低賃金拡散現象」の本質である労働生産性について深掘りする。以前の記事と内容が重なることをお断りしておく。

零細企業が、低賃金労働供給のプールになり、限界的に賃金を抑える機能を果たしていることになる。
零細企業の低賃金が経済全体に拡散する現象だ。「賃金に関して、日本経済全体が零細化する」と表現してもよい。
問題の本質は、非正規の低い賃金でしか採算が取れないほど日本企業の生産性が低下したことにある。
生産性向上に真剣に取り組むことこそが、賃金問題の根幹だ。

画像12

「低賃金でしか採算を取れない」は言い過ぎで、企業(特に資本金10億円以上の大企業)の利益率は空前の高水準に達しているので、賃上げの余地がないわけではない。

画像2

画像1

賃金が上がらない理由は、主に二つある。

❶大企業が株主還元を増やすためにコスト削減を強化(下請けにも波及)
❷設備投資→資本装備率上昇→労働生産性上昇→賃金上昇のメカニズムが止まる

❶だが、大企業の行動が、景気拡大が始まった2002年度から劇的に変化したことが見て取れる。

画像3

大企業の経営者が「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」という思想に雪崩を打って「改宗」したことの反映である。

❷は大企業から中小企業まで企業部門全体に共通する。

画像4

画像8

かつて日本の製造業は、積極的に設備投資を展開して、生産性を向上させてきました。設備投資によって得られた収益で、再投資するという習慣がありました。しかし、今では大企業も、販売数量の大幅アップが見込める事業にしか設備投資をしません。基本的には減価償却の負担がゼロになるまで現状維持のまま旧来の設備を使い続けるところが多いようです。
製造業だけではありません。以前、こんな話を聞きました。日本企業のほとんどはソフトウェアに何か不具合が起こらない限り、新製品に更新しない。一方、外資は、不具合がなくても、効率の高いソフトウェアが新しく出れば更新する。ソフトウェアの性能が競争力を決める金融業界では、特にその傾向が強い。その結果、日本企業は相対的に競争力が落ちていく――。
日本企業の多くは、投資をしてキャッシュを動的に増やすのではなく、固定費負担を下げ、人件費も下げることで利益を確保しようとしています。

労働生産性向上に直接的に寄与する機械設備とソフトウェアへの投資は、1991年のピークを未だに下回っている。

画像5

アメリカと比較すると、日本の過少投資が鮮明になる。

画像6

ストックベースでも、1990年代後半から日米格差は拡大する一方である。資本主義経済は設備投資→資本蓄積が成長の原動力だが、日本は資本蓄積が進まないので成長しなくなるのは必然と言える。

画像7

「設備投資に消極的→技術力も向上しない→競争力低下」なので、日本企業は低賃金で対抗するしかなくなっている。「おもてなし」や「きめ細かいサービス」が強調されるようになったのも、技術力の優位がどんどん失われているからである。戦時に「大和魂」が強調されたことと同じである。

問題は、なぜ日本企業はキャッシュリッチなのに設備投資に消極的なのかということになるが、その理由も二つある。

①国内需要の先細り(←人口減少)

画像9

代わりに海外投資が大幅に増えている。グローバル化した企業は日本を見限り、日本社会の一員ではなくなっている。

画像10

②投資のハードルレートが高い(←資本コストが高い)

負債のコスト(金利)は予想成長率と整合的な水準の約1%に低下しているが、株主資本のコストはグローバル水準の7%超に上昇~高止まりしている。そのため、ハードルレートも高止まりして国内投資を抑制している。

つまりは❷の「設備投資→資本装備率上昇→労働生産性上昇→賃金上昇のメカニズム停止」も、企業が株主利益最大化経営(→資本効率重視)に転換した結果ということである。「自由化・国際化した資本市場(つまりはグローバル投資家)からの圧力の高まり」がその背景にあることは、1999年度の経済企画庁『年次経済報告』でも指摘されていた(⇩)。

このような、長期的な要因としての日本的な企業経営の行き詰まりが、97年秋以降の不況の深刻化とともに、より逼迫したリストラ圧力となって感じられるようになってきた。
第三は、自由化・国際化した資本市場からの圧力の高まりである。含み益の減少や株式の持合いの滅少は、経営者の裁量の余地を狭め、資本市場から企業の収益性が厳しく問われるようになってきた。
こうした中で、企業は規模より収益性重視へと経営の重点を急速に移しており、これがリストラ圧力の高まりの背景になっている。

1990年代半ばからの構造改革とは、日本的経営の行き詰まりを資本を労働で代替する「産業革命の逆」で打開を図るものだったと言える。

資本コスト上昇←金融ビッグバン
雇用コスト低下←労働規制緩和

設備投資と新技術導入ではなく低賃金労働に頼る退行的経営を20年以上も続ければ、低賃金でなければ採算が取れない企業体質になってしまうのは当然と言える。このような環境で出世した経営陣には技術の評価や投資の決断の能力が不足していることもあるだろう。

「労働生産性向上」と叫ぶエコノミストは多いが、その原因を理解しなければ、解決策は見いだせない。

画像11

消費税が「零細企業の低賃金拡散現象」でないことも付言しておく。消費税が諸悪の根源であるかのように騒ぎ立てることは、それよりも重大な問題を覆い隠して日本経済を「手遅れ」にすることにつながる。「消費税憎し」で正常な思考力を失ってはいけない。

世界恐慌→大陸進出→対米英戦争で難局打開→破局
バブル崩壊→日本的経営の行き詰まり→構造改革で難局打開→破局

大陸進出も対米英戦争も構造改革も民意に支えられていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?