「民主主義」が気に障る
前々から気になっていたこの👇誤訳の例を三つ挙げる。
デモクラシー(民主政)をいつまでも「民主主義」と誤訳しているのもそうですが、戦後70年以上かけても「国家」と「お上」の分離ができなかったのでは。
— 橘 玲 (@ak_tch) April 25, 2020
デモクラシーを主義(イズム)にしてしまうと、リベラルデモクラシーという枠組のなかで異なる「主義」が対立する政治論争の基本的な構図がわからなくなってしまうからです。
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「民主主義」は適訳か ――「デモクラシー」訳語考序説―― ―3―
橘玲の指摘👆の好例になるのが一つ目の『幻想の終わりに』で、政治的形式(国民を支配するもの、政体)としてのDemokratieを「民主主義」と訳しているために、よく考えると意味不明な文章になっている。
まず、ポピュリズム的な政党や運動の特徴は、政治的形式のレベルで確認できる。ポピュリズムは、自由主義的な民主主義ではなく、反自由主義的な民主主義であるような、民主主義の「代替」モデルを出発点としている。1945年以降、西洋社会を特徴づけ、政治的にこれまで支配的であった見方では、民主主義と自由主義は相互に結び合わされている。左派の社会民主主義者から右派の保守主義者に至るまで、政治的な基本コンセンサスは、国民を支配するものとしての民主主義が法治国家や諸制度間のチェック・アンド・バランスのような自由主義的原理と結びついていなければならない、という点を出発点としている。
二つ目は、カマラ・ハリスが大統領選挙の勝利スピーチで引用した"Democracy is not a state. It is an act."で、政体だとすれば意味が通るが、「民主主義は状態ではなく、行動(行為)だ」では意味不明になる。
“I want you to know that in the last days and hours of my life you inspired me,” wrote Representative John Lewis, who penned this essay shortly before his death on July 17. We are publishing it today, on the day of his funeral. https://t.co/98g0K9zPvE
— New York Times Opinion (@nytopinion) July 30, 2020
Democracy is not a state. It is an act, and each generation must do its part to help build what we called the Beloved Community, a nation and world society at peace with itself.
三つ目は한병철の『情報支配社会』で、ローマの共和政→帝政のように、現代の先進国の政治形態がDemokratie(民主制)からInfokratie(情報支配制)へと移行しつつあることを論じている。
情報の津波は政治分野をも飲み込み、民主主義のプロセスの大規模な歪みと混乱を招いている。民主主義は情報支配制に堕落している。
問題は、訳者がInfokratie⇔Demokratieの対比関係を理解しているのに、わざわざ「民主主義」と訳しているため、文の流れがおかしくなり、読者が「民主制」といちいち頭の中で変換しながら読まなければならなくなっている。なぜこのような訳にしたのか理解に苦しむ。
ここで扱われる危機のありようを一言で言い表したのがタイトルにある「情報支配制(Infokratie)」である。この語は明確に「民主主義(Demokratie)」との対比で用いられている。「民主主義(Demokratie)」の語源は古代ギリシア語の「デモクラティア」であり、この語は民衆または人民を意味する「デモス」と、支配または権力を意味する「クラトス」の二語の組み合わせに由来する。すなわち、Demokratieという語は語源的には、君主や貴族、特定の党派などの特定の少数の人びとによる支配との対比で、「人民による支配」を意味する(ただし、本書では日本語の慣例にしたがい、古代ギリシアの民主制が問題になっている文脈以外ではこの語を「民主主義」と訳した)。
今まで気にしていなかった人もこれからは気にしてもらいたい。
余談だが、フィンランドの元首相が1984年にinfocracyの脅威に言及していたとのこと。主役は当時はマスメディアだが、現代ではGAFA(GAMA?)に代表されるテック企業になっている。
In June 1984, Sorsa gave a speech on "infocracy" (i.e. the power of the mass media) at the Social Democratic party convention. Infocracy challenges parliamentary democracy, is unintelligent and avoids discussing social problems, he said: it takes more interest in individual politicians than political issues and is never critical of its own actions.
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