イングランド銀行の英政府への直接資金供給は財政ファイナンスではない

イングランド銀行が英政府にWays and Means facilityを通じて直接資金供給することになったが、これは「土日に急遽多額の現金が必要になったが、銀行が閉まっているので消費者金融から借り、月曜日に返済する」ような一時的な立て替えであり、helicopter moneyやovert monetary financingのような財政ファイナンスではない。

プレスリリースに明言されているが、政府のキャッシュマネジメントの円滑化とマーケットの安定を目的とした一時的な措置である。

The government will continue to use the markets as its primary source of financing, and its response to Covid-19 will be fully funded by additional borrowing through normal debt management operations. Any use of the W&M facility will be temporary and short-term. As well as temporarily smoothing government cash flows, the W&M facility supports market function by minimising the immediate impact of raising additional funding in gilt and sterling money markets.

日本の財務省『債務管理リポート2019』で説明されているルールとほぼ同じである。

政府短期証券(Financing Bills、略称:FB)は、国庫金の短期の資金繰りのために、また特別会計の一時的な資金不足のために発行することができます。
政府短期証券は、原則として公募入札により市中発行されています。
なお、公募入札において募集残額等が生じた場合及び国庫に予期せざる資金需要が生じた場合には、日本銀行が例外的に政府短期証券の引受けを行う仕組みになっています。
この場合、日本銀行が引き受けた政府短期証券は、その後の公募入札の収入により、可及的速やかに償還することになっています。

銀行の三大業務は①貸出(信用創造したカネを貸す)、②預金(カネを預かる)、③為替(カネを預金者に代わって送る)だが、中央銀行が「政府の銀行」として行っているのは②と③で、①は臨時的措置に限られる。中央銀行が政府の財政支出を肩代わり(準財政活動)→ハイパーインフレーション→自国通貨廃止に至ったジンバブエのような例外を除くと、原則として、中央銀行は政府にカネを貸さないので、政府は民間から徴税か借り入れでカネを調達しなければ支出できない。従って、下の(1)は事実ではない。

MMTがspending firstの論拠とする「統合政府」だが、形式的にも実質的にも存在しない。MMTは架空の存在を前提とした虚構の理論ということである。

(2)も、長期金利は予想インフレ率を織り込んでマーケットで決まるので、長期国債には当てはまらない。

MMTは中央銀行が発行したカネ(現金)を政府が民間から借りることを、中央銀行が政府にカネを貸すことと(意図的に?)混同しているが、現金は銀行預金と交換されるためにeligible marketable assetsを裏付け資産として発行されるもので、「実質的には政府が発行したカネ」ではない(政府は通貨の発行者ではなく利用者)。流通市場の国債を裏付け資産として現金を発行することは財政ファイナンスではない。Fedの説明(⇩)を参照。

The Federal Reserve does not purchase new Treasury securities directly from the U.S. Treasury, and Federal Reserve purchases of Treasury securities from the public are not a means of financing the federal deficit.
In financing the federal deficit, the federal government borrows from the public by issuing Treasury securities, which are sold at auction according to a schedule that is published quarterly.

ただし、現在の日本銀行のYCCのように長期金利を意図的に引き下げることは国債費の圧縮につながるので、財政ファイナンスではないとは言えなくなる。

補足

財務省が説明するように(⇩)、国(政府)の財源には❶徴税、❷国債発行(市場金利で)の二つがある。

国は、租税及び国債等の形で民間部門から資金を調達し、これにより、公共事業、社会保障、教育及び防衛等様々なサービスを提供している。

ところが、MMTは❶→税は財源ではない、❷→国債廃止と否定して、各国で原則禁止されている❸中央銀行による信用供与(金利は「統合政府」が決める)が唯一の財源だとしている。このことは、MMTが民間主導の市場経済を否定して国家統制を基本とする社会主義的な経済思想であることを示している。事実、MMTの目標はJGPによる失業ゼロ社会の実現である。

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