国会議員に必要な経済知識のアップデート

経済知識がアップデートされていない国会議員。

要望の中で最優先事項として提案した「日銀に対し2%のインフレ目標を2021年度中に達成を果たすよう政府から要請する」「インフレ目標の達成のために、政策委員会委員の同意人事にあたっては、従来の慣例・既得権にとらわれない人選を行う」の二項目は、従来の金融政策から踏み込んだものです。特に『政策委員会委員の人選』は我々としても相当高めの球を投げたつもりでしたが、総理の反応は私の予想を超えるものでした。
デフレが止まり物価が上がるだろうという『期待』が高まると、企業は内部留保をため込むよりも投資が有利になると考えるようになり、個人も消費に動きだします。安倍政権で経済を浮揚させた最大の要因は金融政策でした。菅政権は更に大胆な金融政策に踏み出す可能性があります。

中央銀行による景気刺激策は、

政策金利を下げる→市中銀行(正確には預金取扱機関)が中銀預金を借りやすくなる→銀行貸出の採算ラインが下がる→非銀行部門が銀行から預金を借りやすくなる(借入のアベイラビリティが改善する)

の経路がメインなので、政策金利をゼロに下げれば限界である。金融政策は原子力発電の制御のように「減速の度合い」を調整するものなので、核分裂反応に相当する「民間部門の投資意欲」がなければ無効になる。そのため、マイナス金利のような「更に大胆な金融政策」は有害無益になってしまう。

「期待」がデフレ対策に重要なことは確かで、大恐慌時のアメリカでは1933年3月のローズヴェルト大統領就任とほぼ同時に物価の下落が止まり、反転上昇した。

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就任翌日からの銀行休業によって国民の銀行への信頼感を回復させ、信用収縮を止めたことが大きいが、その効果がはっきり出る前に物価は「期待」で上がり始めた。

これと似た例が2012年12月末の安倍首相就任で、1990年代末から続いてきた緩やかなデフレのトレンドが完全に反転した(直近はコロナショックでやや下落基調だが)。

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新たな金融政策が打ち出される前に物価が反転上昇に転じたことは、アベノミクス第一の矢への期待がデフレ脱却の主因だったことを示唆する。

しかし、期待の効果では限界があるのも確かで、アメリカも経済が完全に回復するのは日本軍のパールハーバー攻撃を契機に軍事支出が爆発的に増加したことによる。1940→43年の3年間で実質GDPは1.6倍強に急拡大した。

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現在の日本は1940年頃のアメリカよりも状況が悪いのは、人口減少とグローバリゼーションのために、民間設備投資主導の景気拡大が継続する可能性が極めて乏しいためである。特に地方経済は深刻で、将来的に需要の継続的増加が見込めなければ、いくら低金利で借りられるとしても、借入増→設備投資を積極化させることはない。民間企業が合理的に考えるなら、海外進出できるのであれば海外投資、できないのであればひたすら現預金をため込むのが正しい経営判断になる。

今更、金融政策が景気対策のメインになると本気で考えているとしたらどうしようもない。

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