東大准教授が説明しない背景

東京大学の准教授が呆れるほど低レベルでミスリーディングな解説をしている。

読み解きに必須の背景知識については既に記事にしているが、改めて簡単にまとめておく。要点は「ウクライナ人がロシア人の土地を『自分たちのもの』と思うようになった」ことである。クリミアとドンバスの先住民はウクライナ人ではない。

共存が無理なら連邦制にするかチェコとスロヴァキア、インドとパキスタンのように分離すればよいのだが、そうではなく、同化か退去を強要しているので、ロシアがロシア人保護のために介入したわけである。

ウクライナという国名から「ウクライナはウクライナ人(民族)の国」と誤解されがちだが、かつてのチェコスロヴァキアがチェコ人とスロヴァキア人から成る国だったように、現在のウクライナの母体のウクライナ・ソビエト社会主義共和国は主にウクライナ人とロシア人から構成される国としてソ連共産党がロシア革命後に新造した人工国家である。下図はミアシャイマーの講演資料からだが、東部・南部の青い部分がロシア領から編入されたロシア人地域にほぼ相当する。

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問題は、ウクライナ人もロシア人も「ウクライナ国民」という意識は共有すものの、文化的アイデンティティは一致しないことである。ロシア人の多くは「国籍はウクライナだが文化的アイデンティティはロシア」で、隣国のロシア連邦との友好関係を志向するのに対して、独立後にナショナリズムを強く意識するようになったウクライナ人は、ロシア離れを強烈に志向するようになっている。

ウクライナ人は韓国人に似ていて、隣の大国(ロシアと日本)に対する劣等感と、歴史や文化面での優越感を同時に持っている。この複雑な心理がウクライナから「ロシアの残滓」を一掃して国中を純化するというナショナリズムの根本にあり、それがアメリカの煽動もあって過激な形で爆発したのが2014年のマイダン革命(暴力クーデター)である。

これ👇は完全な誤りで、プーチンはゼレンスキーをネオナチ呼ばわりしていない。

ゼレンスキー大統領を「ナチス」や「ネオナチ」と呼ぶのは、ロシアだけでなく、世界のためにロシアが立ち向かうべき敵なんだ、というイメージを植え付けようとしているのだと思います。「ウクライナ人の多くは善良で本当はロシアと仲良くしたいが、少数の危険分子が彼らを惑わしているので、それを駆除する必要がある」という認識です。 ゼレンスキー大統領はユダヤ系で、先祖がホロコーストの犠牲になっているので、ナチスであるわけがないですが、ソ連・ロシアの文脈での「ナチス」は、ユダヤ人を虐殺したことではなく、ドイツの全体主義と軍国主義が世界に混迷と苦難をもたらした、ということがまずイメージされます。ゼレンスキーがユダヤ系だということはあまり気にしていないだろうと思います。

"ネオ"ナチなのだから、本家のヒトラーのナチ党と全く同じ思想であるとは限らない。ユダヤ人の代わりにアジア人の血が混じった野蛮なオークのロシア人を敵視するのがウクライナナショナリズムで、ウルトラナショナリストの目標はウクライナから「ロシア残滓」を一掃して純粋・純血の国にすることなので、ナチの同類であることは明らかである。

プーチンが言っているのは、ウクライナでは大統領も「革命の父」のウルトラナショナリスト(少数の危険分子)に逆らえなくなっているということであり、彼らを無害化するのが特殊軍事作戦の目的である。

They are scared, because the small group that has appropriated the victory in the fight for independence holds radical political views. And that group actually runs the country, regardless of the name of the current head of state.
At least this is how it was until recently: people ran for leadership positions relying on voters in the Southeast, but once elected, they almost immediately changed their political positions to the opposite. Why? Because that silent majority voted for them in the hope that they would fulfil their campaign promises, but the loud and aggressive nationalist minority suppressed all freedom in decision-making that the Ukrainian people expected, and they, in fact, are running the country.

ロシア軍の規模と行動を見れば、この推定👇はほぼ確実に誤りだと判断できる。いくらなんでもプーチンとロシア軍を見くびり過ぎである。

ウクライナ人はロシアを歓迎してくれるはず、とプーチンは本気で思い込んでいたのだろうと思います。
チェチェンでさえ第二次紛争の収束に10年くらいかかったので、チェチェン並みに抵抗があれば、とても数日のうちに制圧できるはずがない。恐らく、かなり甘い見込みで侵攻したのだと思います。

何の根拠もなく「ロシア軍は数日でウクライナを降伏させられると思っていた」と決め付けて「ロシア軍は弱すぎ」「作戦は大失敗」のように調子に乗ってコメントする専門家が多いが、そもそも特殊軍事作戦の目的は東部の分離派との戦闘を続けるウクライナ軍と、マリウポリなどに拠点を置くウルトラナショナリスト武装集団の打倒(ウクライナ版の「嵐作戦」の阻止)であり、激しい市街戦となることは必至だったので、プーチンが「数日のうちに制圧できるはず」と思っていたはずがない。

「この街は戦争で最も重要な拠点の一つになった。ここを解放したことで『ロシアの春』が来るのを食い止めたんだ」
アゾフが運営する士官学校の校長で、大きな顎髭を蓄えたキールという名の人物は、息を弾ませながら自分たちの功績を強調した。
「連中はドネツクとクリミアを占領したし、(二つの地域を)ホットラインで結ぼうとしていた。その目論見はマリウポリで潰されている。立ちはだかったのはアゾフさ。俺たちは街を三回も守っている」

背景を知りたいならこちら👇をお勧めする。

付録

そうではなく、ウクライナ軍が民間人を「人間の盾」にしているからという指摘👇。

Increasingly, Ukrainians are confronting an uncomfortable truth: The military’s understandable impulse to defend against Russian attacks could be putting civilians in the crosshairs. Virtually every neighborhood in most cities has become militarized, some more than others, making them potential targets for Russian forces trying to take out Ukrainian defenses.
“I am very reluctant to suggest that Ukraine is responsible for civilian casualties, because Ukraine is fighting to defend its country from an aggressor,” said William Schabas, an international law professor at Middlesex University in London. “But to the extent that Ukraine brings the battlefield to the civilian neighborhoods, it increases the danger to civilians.”


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