小林慶一郎『日本の経済政策』・・・条件付で★★★★☆

財政再建派ということでネットの経済論客には評判の悪い小林慶一郎の近著『日本の経済政策』は、小林の分析を「一つの説の紹介」として読むのであれば、1990年以降の日本経済と経済政策を改めて振り返り見る本としては悪くないと言える。

これ👇が小林による総括だが、足りない点が幾つかある。

日本の過去30年の長期低迷は、およそ10年ごとに時代区分が区切られ、それぞれの期間に経済低迷を引き起こす政策上の失敗または構造的な原因が存在した。
具体的には、1990年代の低迷は不良債権処理の遅れが大きな原因となった。さらに不良債権問題が一応の終息をみた2000年代には、経済社会の構造が大きく変化してしまった。90年代末の銀行危機を境に、日本企業は雇用第一というそれまでの暗黙の規範を捨て、労働コストの削減に猛進した。その結果、2000年代の日本企業は生き延びたが、非正規雇用が急増し、人的資本が劣化した。2010年代の生産性の低迷はそのツケが回ってきたために起きた。これに対し、対症療法として低金利政策を打ったことで、採算性の悪い事業が延命され、経済全体の生産性がさらに悪化した。政治面では、低金利のために財政規律が緩み、痛みのともなう政策は先送りされた。その結果、財政や社会保障の不確実性が高まり、将来不安が経済を圧迫することとなった。

ⅱ-ⅲ

主な要因を列挙すると、

  1. 人口減少と高齢化

  2. クリントン米政権による1993年からの円高誘導

  3. 1990年代後半からのICT革命

  4. エレクトロニクス産業における大韓民国・中華民國メーカーの急成長(⇔日本企業の競争力低下)

  5. 中国経済の爆発的成長

  6. 日本的経営からグローバル金融資本主義への転換(←金融ビッグバン)

がある。政府と日本銀行の政策の検証に重点を置いたために、これらの要因が政策ミスと相まって日本経済に多大な負の影響を与えたことが見逃されているのが残念ではある。

それはともかく、歴史のifとして

  • 1992年に宮澤首相が不良債権処理のための公的資金投入を決断(→速やかに実行)

  • クリントン大統領がジャパンバッシングを行わない

があれば、1997~98年の日本は金融危機の代わりにICT革命に向けた前向きの構造転換を遂げていたかもしれない。今となっては見果てぬ夢ではあるが。

付録

第二次安倍政権期(アベノミクス期)は戦後二番目に長い景気拡大だったが、企業の成長期待はまったく高まらなかった。

内閣府「企業行動に関するアンケート調査」

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