MMTとリフレは相容れない

日本銀行の量的・質的金融緩和のバックボーンのリフレ理論と、最近話題の現代貨幣理論(MMT)の違いについて簡単に整理する。

銀行貸出と現金準備

MMTとリフレの違いは、市中銀行が手元と中央銀行の当座預金口座に保有する「現金準備」と銀行貸出の関係にある。

現金準備は、預金者の現金引き出しや他行への送金に備えたもので、預金量にほぼ比例した量が必要となる。短期的にはこの比率はほぼ一定なので、銀行が貸出を増やしてバランスシートを拡大すると、それに伴って現金準備も増やすことになる。

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現金準備の調達コスト(≒政策金利)の変化は預金金利→貸出金利→借入需要に波及するので、中央銀行は政策金利を適宜変更して市中の通貨量やインフレ率を(ある程度)コントロールする。これがオーソドックスな金融政策である。

リフレ派が描いたシナリオ

リフレ派はこの「貸出増加→現金準備増加」の因果関係が逆向きでも成り立つことが世の中の常識だと想定している。「銀行が日々の決済に必要な量以上の現金準備(超過準備)を保有する→貸出を増やす→現金準備の余剰が解消される」と世の中の人々が考えていることが、リフレの大前提である。

以下がリフレ派が描いた成功のシナリオである。

①中央銀行が目標インフレ率を持続的に達成するまで超過準備を供給すると宣言する(インフレ率の一時的なオーバーシュートを許容)。
②中央銀行は銀行から主に国債を大量に買い入れて超過準備を増やす。
③世の中の人々が「遅かれ早かれ銀行貸出が増える→市中の通貨量が増える→物価が上がる」と予想する。
④人々が予想に従って「通貨価値が下がる前に金を使おう」と行動することで予想の自己実現的にインフレ目標が達成される。

今でも私は消費税引き上げはやめた方がいいと断固言い続けますけど、しかし、岩田さんのこの論文を読んで、現実問題として景気挫折の可能性は消えたと思いました。
断言しましょう。大変な好景気がやってきます。バブルを知らない若い世代は、これを見てビビって目を回すでしょう。
次の総選挙は、消費税引き上げ後の多少の混乱を乗り越えたあとの、絶好調の好景気の中で迎えることになります。世の中の一層の右傾化を防ぎたいと願う者は、これを前提して対策を組み立てなければなりません。

このトランスミッション・メカニズムが実在するなら、中央銀行は政策金利がゼロでも超過準備を増やすことで拡張的金融政策を実現できるので、拡張的財政政策は不要になる。

しかし、日本銀行のQQEから6年以上が経過したものの、このシナリオは実現しなかった。世の中の人々は③のようには考えなかったために②の段階で止まってしまったことが、リフレ政策が成功しなかった主因である。

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国債を現金化する量的緩和に「銀行は貸しやすく/借り手は借りやすく」する緩和効果がないのは、銀行は国債を担保にして他の金融機関や中央銀行から容易に現金を調達できるので、流動性リスク低下→貸出積極化にはつながらないためである。

的中したMMTの予測

MMTでは「銀行貸出は現金準備に制約されていない」とされるため、中央銀行の超過準備の供給はインフレ率の引き上げや需要拡大には無効であり、景気刺激には拡張的財政政策が必要となる。

量的緩和の景気刺激効果がほとんど見られなかったことは、この点に関してはMMTが正しかったことを実証している。

総括しない経済学者・エコノミストたち

このように、MMTとリフレ理論は現金準備と銀行貸出の関係や、ゼロ金利下における金融政策と財政政策の有効性といった根本的な点が全く逆なので、一方の支持者はもう一方を否定しなければならない。

ところが最近、MMTの支持者の中に、以前はリフレ派だった経済学者やエコノミストが目立つようになっている。

もちろん、現実に合わせて理論を修正したのであれば問題ないが、それならばリフレの誤りを認める総括が必要である。総括をせずにしれっとリフレ派からMMTerに転向することは、軍国主義者が敗戦後に筋金入りの平和主義者を自称したようなものであり、全く信用に値しない。

そもそも、リフレ派はQQE開始後に③④のように考えて行動したのだろうか。行動を変えていなければ、信じていないことを主張していたことになるのだが。

リフレ派といえば、日本銀行副総裁になった頭目がミスジャッジにもかかわらず辞任しなかった前例がある。

岩田規久男日本銀行副総裁就任記者会見(2013年3月21日)
2 年経って、2%がまだ達成できない、2%近くになってもまだ達成できていない場合には、まず果たすべきは説明責任だと思います。ただ、その説明責任を自分で果たせないということ、単なる自分のミスジャッジだったということであれば、最高の責任の取り方は、やはり辞任だと思っています。まずは説明責任を果たせるかどうかが基本だと思います。

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