税金を納めてもお金は消えない

反緊縮派の代表的なデマがこれ。

言うまでもないことだが、誰かが納税して国が受け取ったお金は「国の金庫」の国庫にある。日本では、国庫金は日本銀行にある政府預金口座に預けられる。10月10日現在の残高は約58兆円あるので煙のように消えていない。

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2015年末から残高が急増した理由は以下の通り(財務省から引用)。

流通市場において国庫短期証券が恒常的にマイナス利回りで取引されていたため、国債整理基金において予定していた運用を行うことができなかったことによる。

言うまでもないことだが、お金が煙のように消えていれば、国庫短期証券で運用できない。MMTの比喩的表現の「徴税されたお金はシュレッダーにかけられて消えてしまう」は完全な誤りである。

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現代ではお金の移動の主流が銀行経由で目に見えないので分かりにくいが、それを現金での受け払いに戻せば、納税でもお金が消えないことが容易に理解できる。図の中銀預金を現金に読み替えればよい。

図の✚の左右は資産と負債、上下は増加と減少を表す。

①は納税者が銀行経由で国に納税する場合だが、これは「納税者が銀行の預金口座から現金を引き出す→現金で国に納税→国庫の現金が増える」と同じである。

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民間部門からはお金が減っているが、これは現金が国庫に移った(所有者が代わった)だけで消えていない。

②は国が民間業者から物品を購入する場合だが、これは「国が物品購入の代金を国庫の現金で支払う→納入業者が受け取った現金を銀行に預け入れる」と同じである。

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①②の前後では、納税者の預金が納入業者に移っただけで、預金の総額は減っていない。

③は税金をノンバンクが保有する国債の償還に充てる場合だが、これは「国が国庫の現金で国債を償還する→ノンバンクが現金を受け取る→ノンバンクが銀行に現金を預け入れる」と同じである。

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①③の前後でも、納税者の預金が国債を保有していたノンバンクに移っただけで、預金の総額は減っていない。

④は税金を銀行が保有する国債の償還に充てる場合だが、②③の「現金の預け入れに伴う預金の増加」がないので、①④の前後ではお金が消えている

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これは、④を③と同様の「現金の入金に伴う預金の増加」と⑤の「銀行の対政府信用=預金の減少」に分解すると理解しやすい。

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税金が銀行保有の国債償還に充てられる場合は、銀行のバランスシート上の資産の国債と負債の預金がヴァーチャル対消滅するためにお金が消える。お金を消しているのは国ではなく、預金の創造元の銀行である。

これは逆もまた然りで、国の「国債発行→財政支出」の前後で預金が増えるのは銀行が引き受ける場合で、銀行以外が引き受ける場合は預金が移動するだけで増えない。

①~⑤に中央銀行が登場しないのは、中央銀行は銀行預金と交換される現金(あるいは銀行預金と両建てで移動する中銀預金)を、銀行が保有する安全資産を裏付けとして需要に応じて供給しているだけだからである。

この漫画のような反緊縮派の「徴税でお金が消える」という主張は、構造改革派の「小さな政府」路線に利用されかねないので引っ込めてもらいたい。

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