円の相対価値は1ドル=360円の時代に逆戻り

円の他通貨に対する相対価値を示す実質実効為替レートが著しく低下している。

BISより作成

2022年6月とほぼ同水準になるのは1971年8月と9月の間だが、これはドル円では1ドル=350円に相当する。7月に入っても円安は進行しているので、直近では1971年8月15日のニクソン・ショック前の1ドル=360円程度にまで下落していると推測される。

BIS
橙マーカーは1971年8月(1ドル=355.78円)

ここまで円安になった一因は、この👇ような考え方が検証されないままずるずると続けられてきたことにある。

まず、私は、少なくとも現状の日本においては、ある程度は円安のほうが良いと思っています。
国内で代替のしようがない原油などに限れば、もちろん円高のほうがよくなりますが、円高になると海外からその分安くモノやサービスが入ってくるので、競合する国産品が売れにくくなります。日本が海外へ輸出しているモノやサービスも、円高が進むと売れにくくなります。こういうときに円高にしてしまうと、国内で生み出される付加価値が奪われ、経済全体で考えれば良くないと言えます。

現実には、円安で数量増となった外需はインバウンド観光くらいで、輸出は全くと言っていいほど増えていない。グローバル経営を深化させた日本企業が、為替レート変動に影響されにくいように生産拠点の海外展開を進めたためである。

更に根本的な要因は、過去20年以上の日本の国策が「賃金抑制」だったことである。

一国の経済力は所得水準で測られ、所得水準は賃金水準をほぼ反映する。賃金抑制は世界経済における「所得増加競争」で日本だけが足を止めることを意味するので、先進国グループからは脱落し、後進国グループには追い付き追い越されてしまう。

個々の企業にとって賃金上昇それ自体はコスト増(⇔利益減)要因だが、一方で技術革新・労働生産性向上のインセンティブにもなり、マクロでは購買力を増大させる経済成長促進要因である。逆に、賃金抑制は企業の利益を増やすが、技術と労働生産性は停滞し、経済の成長力も鈍化する。

構造改革の推進者の思惑とは逆に、賃金上昇を意図的に止めた日本経済は共産主義諸国と同じ転落コースに陥っている。

共産主義諸国のプロレタリアートの奴隷的境遇は、長期的にはいくつもの経済的帰結をもたらすが、その最も重要なのが技術的停滞である。東欧諸国とソ連の労働者は、いかなる自衛手段(組合、スト権)も持たない。その結果、賃金に関わる要求を実現することができない。賃金の上昇が停止していると、工業への技術的進歩の適用による機械の生産性の上昇も、[労働者の生産性が低いため]無駄に終わるのである。


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