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『I.G交差点』ふたりめ:新潟スタジオ 小村方宏治 (後編)

[ゲストと聞き手]
ふたりめ 小村方宏治 (株式会社プロダクション・アイジー製造技術部 作画課 新潟スタジオ所属)
聞き手 藤咲淳一(株式会社プロダクション・アイジー 脚本家)

前編はこちらから。

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(自画像:小村方宏治)

後編のスタートです。

――あの頃、よく東京にもI.G新潟の人たち来ていませんでした?

小村方:新潟のスタジオにいるだけだと、東京の緊張感や切羽詰まった空気を知らないままなので、半年から一年くらいの期間、I.G本社に席を移して仕事をしてもらうという取り組みをやり始めたからかな。これは今も続けていますが。。

――僕としてはI.G新潟がローテに入っていると安心していました。

小村方:ありがたいですね。でも作打ちとか電話だけだったりすると、こっちの存在忘れられちゃうから、なんとか接点を作ろうと頑張っていました。

――でも実際、丁寧な仕事をしてくれていますし。

小村方:I.Gの動画は丁寧だ、という評判があるので、I.G新潟の動画マンもプライドを持ってやってくれています。I.Gに任せると安心できるというのは作品の鍵にもなりますし。

――育て方がいいのですかね。

小村方:他のところの事情はよくわかりませんが、人がいないためか、ちょっとでもうまければすぐに原画になれるというところもあると聞いています。動画での学びは原画を描く際にも不可欠なので、I.G新潟では一定期間しっかり指導していく方針を守っています。

――最初の2、3年は確かにきついでしょうけれど、作画のいろんなことを学ぶ一番大切な時期ですからね。動画さんは何名おられるのですか?

小村方:7名かな。

――他は原画や作画監督?

小村方:そうなります。

――演出はコムさんだけ?

小村方:興味を持って勉強を始めた人間はいるから増えるかも。

――辞められる方って少ないのですか?

小村方:離れていく人も一定数いますが、他のスタジオとのつながりが薄いこともあって、比較的すくないかもしれません。

――新潟に限らず地方あるあるですね。

小村方:異なる傾向の作品に参加したいとか、今とは違うやり方でチャレンジしたいとか。それと、引っ越しという物理的なハードルを越えても挑戦したいという人が飛び立っていくんだと思います。新潟の環境や、このスタジオの空気が合うという人が残ってくれるのかなと思っています。

――そんなスタッフが育っていく姿を間近で見られているのですね。

小村方:見てはいないです。みんな、ある程度のことを教えると、自分の道を進み始めますし。

――スタッフ同士で教え合うようなことってあるのですか?

小村方:師匠制度やチェックはありますが、勉強会みたいなことは最近はやれてないかな。作業の中で演出チェックをしていると、この子はちゃんと学べているのかな?――と心配することもある。だからみんな、それが確認できる学びの場とかがあればいいとは思います。

――オンラインとか使って東京と交流できるといいですね。後藤さんのオンライン作画講座とか。

小村方:それはいいかもしれない。

――学びの場を作って育てていきたいということと、現実の壁はありますよね。

小村方:そうですね。今の動画って丁寧にやらなきゃいけないのだけれど、それは原画も同じで。絵を作るというよりも線をきれいにする動画ばかりになっちゃったかなと。とにかく考えて動かすものが減ってきています。だから動画の人が原画のことを学ぶのが、原画さんからの指示とかじゃなく、原画に上がってから戸惑いながら学んでいく形になってしまっている。

――今の制作の課題ですね。

小村方:制作の流れが一原・二原の流れが定番になっていますし。一度、一原を出すと、レイアウトバックまでに一ヶ月跨いだりするので、仕事が空いちゃうといけないから他の仕事をいれることになる。そうすると制作進行もその人に二原作業を戻すことができないから、結果的に違う人に出さなくちゃいけなくなるので仕方がない。それに合わせて請求などの処理もそうなっています。作画期間とかにちゃんとスケジュールが取れれば少しはいいのかもしれませんけど。

――長い作品をしていれば人を育てられることってあるじゃないですか。それについてはどう思いますか?

小村方:長くやる上での良さは確かにある。繰り返しやることで、慣れてくるし、雰囲気もわかってくるので、演出さんなどからの指示も「前の感じでお願いします」とか言えるのがいい。でも実際は同じような作業ばかりになると飽きてくるという問題もあるのでなかなか難しい話になりますね。

――もっと違う作風のものをやってみたいとか?

小村方:最近、社内でアンケートとか回ってきたりしていますね。

――へえ、うちもいろいろ考えているのだ。(企画室室長なのになにも知らない)

小村方:I.Gってしっかり緻密で、線が多くて、繊細な作品が多いじゃないですか。それがI.Gらしさになっていてニーズもあるからそうなっているのでしょうけど……、そればかりだと息が詰まることもあります。だからもっと簡単というか、テレビって感じで動かしやすい作品で、動きを学べるといいなと思います。

――デフォルメとか効かせられる子供向けとかですか?

小村方:子供向けまでいかなくてもいいんですけど、崩してもいいようなものがあるといいですね。そういえば、最近、動画のスタッフから「久々にオバケを見ました」と言われました。

――オバケというと、作画上の残像表現のことですよね?

小村方:最近は見ることが少なくなりましたからねぇ。使い所も難しいですし。

――ラインハルトのおばけとかみたくないですしね。

小村方:企画によりけりでしょうね。こちらが望んだとしても結果として売れる作品でないと成立しないでしょうし。数年前にやった『魔法陣グルグル』はよかったですね。楽しく活き活きとしてやってた感じがします。またあんな作品が創れるといいですね。

生活芝居もあり、崩しもあるようなやつで、1枚描くのにも時間がかからずできるのがいいなと思ってます。

――そんな状況でも人を育てていかなくてはいけないんですね。よく間の世代がすっぽり抜けちゃったりすることあるんですけど、I.G新潟はどうですか?

小村方:まとまって塊が抜けてるってことはないです。そんなに多くはないですけど、残った人間たちがそれぞれの世代に残っていてくれてます。そうした人間たちに、目の前の作業だけでなく、モチベーションを持って作品に関わる誇りとか、持ってもらえたらと考え続けています。自分がそうだったので。

――その流れを引き継いでいってもらいたいですね。人をどんどんいれたいですね。

小村方:3年前にスタジオを大きな物件に移転させたので、人数が増えても問題ないですし、教えられる人間もいるので、4、5人採用してもいいのだけれど、今年は応募が少なかった。

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――I.G新潟のスタッフは地元の人が多いのですか?

小村方:半分は地元。残りは県内外のいろんなところから来ています。

――新潟だと車とかで来たりするのですか?

小村方:駐車場は無料だから車や自転車、バイクもいるけど、スタジオが駅から徒歩5分のところにあるので、電車で来る人もいます。交通の便がいいところが売りになりますかね。あと家賃や生活費は東京に比べると安く済みますし、作業環境はそんなに東京とかわりません。

――コムさんがいるというのはアピールポイントになりませんか?

小村方;そうですかね(笑)

――気分転換できるようなところってあります?

小村方:海が近いので釣りにいけます。

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――コムさん、新潟で独自性を出したいとかってあります?

小村方:独自性というか、せっかく新潟県にあるスタジオなので、新潟の土地にゆかりのある作品とかできたらいいなと思いますね。でもなかなか機会がないのも現実ですけど。

――地元舞台の作品というと、隣の県のP.A.WORKSさんが作られていますね。

小村方:堀川(憲司)社長がきっとやり手なのでしょう。最初のスタジオも街の中心地に設けられていましたし、行政への働きかけなど努力されたのだと思います。今のスタジオになる前は一度、見学に行きました。

――僕もこの取材を企画したときに調べてわかったのですけど、富山と新潟、意外と距離あるのですね。

小村方:そう。車で4時間かかるから東京に行くのと変わらない。新潟県は長いし、PAさんも京都寄りにあるから。

――そんな新潟に行けるようになったら、是非、美味しい店に連れて行ってください!

小村方:喜んで。



プロダクション I.Gの作画を新潟から支えてくれているI.G新潟の小村方宏治さんへのインタビュー、いかがでしたでしょうか?
僕から見た小村方さん――、コムさんはいつも同じというか、こっちが焦るべき状況なのに、慌てないので安心できるところがあります。僕自身が一緒に仕事をしたのは随分と前なので状況は違うのかもしれませんけど、話していてコムさんは相変わらずコムさんなのだということがわかって安心できました。これからもI.G新潟の丁寧な仕事でうちの作品を支えてほしいです。

次回も意外な繋がりを持った人たちへのインタビューをしてまいります! お楽しみに!

『I.G交差点』とは……

Production I.Gのnoteをスタートしようとなったときに、作品の公式サイトでも、I.Gの公式サイトでもない、noteという媒体で何を伝えたいのかな考えました。
作品のことでもなくて、単なる企業の今を伝えるということでもないな、そうぼんやり思いました。じゃあこの場では何を発信したいのか?考えて、考えた結果、もっと内側の「人」のことを伝えられないか、と思い立ち動き出したのが「I.G交差点」です。
ものづくりの会社には毎日たくさんのスタッフが出入りします。ずっとI.Gにいる人もいれば、今日新しく入ってくる人、そして、新しい場所へ向かう人もいます。
人が行きかう「場」としてのI.Gの輪郭を、様々な立ち位置の方たちからインタビュー形式でお話しを伺いながら、見つけていきたいと思います。

記事公開日:2021年3月12日