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『君たちはどう生きるか』感想

ジブリ最新作、『君たちはどう生きるか』を見てきました。
早起きして早い電車に乗って、朝一番の上映を見てきましたよ。

美しい自然に囲まれたお屋敷……と、嫌な人々

なんなら、後半になってからの異世界よりも、この田舎は美しかった。深い森、湖沼、山々……そしてそんな自然の中に、実に立派なお屋敷がある。デカい屋敷っていうのは、見るだけでなんとなく心が嬉しくなる。一方で、静まりかえっている印象もあるが、なんなら、むしろそれはうれしい。ああいう人気のない立派なお屋敷に住んでみたいものだ……なんて、そう思わされる美しさだった。

一方で、そんな美しい現実世界の人々は、なーんか嫌な感じがする。
父の再婚相手である母の妹はすでに身ごもっているし、ばあやたちは貧乏くさくて浅ましさを隠そうとしないし。それに何より、父親のあのギトギトした感じ!

父親

妻を亡くしてすぐにその妹と再婚するし、すでに孕ませているし、自分はエリートで徴兵されていないくせに戦争で前線にいる兵隊たちに対して他人事だし、田舎を見下していて金にモノを言わせようとするし……と、とにかく父親の俗な側面が嫌というほど描写される。繊細な美少年である主人公の内面は母親似なんでしょうね。
とはいえ、この父親が男を見せる部分はある。失踪した息子が塔にいるのではと疑った父親は、武装して塔へと赴くのだ。そしてそこで一瞬だけ見つけた息子を救うためにインコの化け物に対して突撃する!
実質的にこの父親の出番はここで終わりだけど、それまでの抑圧的な父権主義の反面、この男は家族のために身体を張れる人間でもあるんだよなと気づかされる。多少コミカルな場面であったが、なんだか見直してしまった。
なんとなく魅力的なキャラである。結局、偉そうにしている人間に中身があるかどうかって、いざというときに身体を張れるかどうかなんですよね。その点で、少なくともこの父親には体を張る覚悟があったというわけ。(嫌になるほど俗なふるまいをする点については、おそらく根が俗物なだけで、悪意があるわけではないんだろう)

塔は、もしかして仏教説話からのモチーフ?

現実世界と異世界をつなぐ場所である『塔』については、なんとなくこの前ラジオで聞きかじった仏教の説話を思いだした。
つまり、悟りを開いた釈迦のもとに、過去仏を乗せてどこからともなく現れる宝塔のことである。『君たちはどう生きるか』に出てくる塔も、突然宇宙から降ってきたものだと作中で言われているし、その塔のなかで大叔父と主人公が会合することを考えると、なんとなく符合している。
仏教説話のほうでは、塔とともに現れた過去仏、つまり過去に悟りを開いた者が、釈迦の悟りは正しいものだと称えて、二人でその塔の中の座に並んで座ったのだという。
『君たちはどう生きるか』では、もちろん主人公は正しい継承者である。彼は先代の塔の管理者である大叔父から称えられ、後継者になってくれと切望されるが……しかし、主人公は自分の意思でその誘いを拒絶する。

閉塞感のある世界

塔からつながっている世界、というか塔の中にある世界? そこは魔法や異形生物が存在するファンタジー世界だけど、どうもこの世界が窮屈な感じである。
あえて閉塞感があるように演出しているのだろうか? その編は分析できないけど、とにかく、ひたすらに窮屈に感じた。
むろん、終盤は塔の中にいるわけだから閉塞していて当然なのだけど、その前の海の上にいたり、父の再婚相手を探す旅の途中であったりでも、なんだか閉じ込められている感じがする。
だからこそ、最後に塔の中の世界が破局したあとのシーンの解放感に繋がっていくのかもしれない。

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