【プリズンライターズ】転生したら『受刑者』だった件 Vol.2
転生したら『受刑者』だった件 Vol.3 - 監禁プレイの功名 -
こんにちは。あるいはこんばんは、みなさん。
前世は「パチプロ」兼「ディストリビューター」、現在は「ガラス工見習いLv.1」だ。
こんなタイトルで連載させてもらっているが、実は原作は全くの未読だ。優しいみなさん、いつでも差入れ待っているぞ。
先日、我が大分ケームショ国では、国王のユニークスキル『ダッテ・5・ルイダモン』が発動し、今やお馴染みの彼らの迅速な蔓延に貢献した。
かつてない規模のパーリィナイトに我々下級国民はイケイケのガンギマリで、現場の下級貴族たちは王族の尻拭いに阿鼻叫喚する地獄絵図であった。
まぁ、その件に関しては他の人たちが語ってくれるだろうから割愛するとして、今回はケームショのお仕事の話。
ご存じの通り、ケームショは強制労働施設だ。こちらの世界に来た者は、老若男女有名無名問わず強制労働に身も心も捧げることになる。
職業選択の自由とか労働者の権利とか、そんな概念は存在しない。
王様の鶴の一声で国内のどこかの村に召喚され、村の長の命じるままに特殊ジョブに隷属することになる。
ジョブチェンジの王道ルートは命令に従わないことだが、それにはもちろん例の拘束魔法が待っている。
発動したが最後、精神と時(を摩耗する)部屋にて精神修業の日々を満喫することとなり、色々剥ぎ取られたのち、デバフ盛り盛りの状態でまたどこかの村に召喚されることになる。転職は命懸けだ。
ただ最近、僕自身はちょっとイレギュラーなルートでジョブチェンジすることとなった。
先日のパーリィナイトで脳細胞がラリラリしていた我々は、下級貴族らが放ったブービートラップにハマり、禁じ手とも言える無差別拘束魔法『トリマ・ミナチョーサ』を喰らってしまった。
疑わしき者は叩けば何かしらほこりが出るだろうという悪しき思想からの暴挙だったが、さすがに本当に何も出ない者を罰することはできなかったようで、約1ヶ月ほどの監禁プレイだけで済んだ(大ダメージ)。
通常、無罪放免者は元の村に返却されるのだが、何が気に入らなかったのか、今回凌辱された我々3匹は皆バラバラの村に出荷されてしまった。
プギー!!
慣れ親しんだ村の仲間たちと強制的に引き裂かれたのは理不尽なものだったが、低ランクジョブから得られる経験値はもうとっくの昔にカンストしていたので、精神修業をすることなくジョブチェンジできたのは不幸中の幸いだったかもしれない。
新しい村では、複数の工芸品産業が営まれており、その中で僕は竹細工クラフターとして再スタートを切った。
この村のジョブは、比較的高い器用さスキルと熟練度を要するものが多く、そのためか村民も海千山千のベテラン異世界マスターたちが多く存在していた。
中には、そんなベテランたちや村の長ですらアゴで使い、我々下級国民はひざまずくことしか許されないような最高ランクの「アンリミテッドアナザーワールダー」も君臨しており、僕は初日からガクブル震えていることしかできなかったものだ。
そんな新しい村でイチからシコシコ経験値を溜める日々を送っていた僕だったが、まだ季節も変わらぬある日、またもやジョブチェンジの辞令が下った。この村には実は、ケームショでは珍しく、最初からは就くことはできない上級生産職があった。
村でクエストをこなしている間に戦闘力を測られ、運が良ければジョブチェンジすることができるらしい。
それが「フレイム・アルケミスト」だ(厨二)。
火炎錬成放射器により超温の炎を錬成し、荒ぶる火竜を従え、人類が生み出しし究極の宝石を創造する…
まぁ、あえてわかりやすく言えば、ガスバーナーで食べられないアメ細工を作っていると思ってもらえばいいと思う。
上級職なだけあって、作業難易度はMAXだ。
一番基本的な製品を作れるようになるまで、半年ほどかかるらしい。それまで毎日、手と顔を直火でこんがりさせながら修業の日々が続く。
その分、ケーム作業の中では自由度は高く、修得したスキルは外の世界でもある程度価値を持つものとなっている。
最近は法務省からの依頼を受け、ウクライナ支援の一環として、作ったガラス製品はウクライナの子どもたちにも送られているのだという(もちろん、僕の錬成したものは絶賛ベンチを温めている)。
なんだ、異世界の住民も役に立ってるじゃないか、と思ったりもするが、果たしてそうなのだろうか?という話もしたかったが、それはまた次回。
紙が切れた(物理)。
令和5年12月1日
転生したら『受刑者』だった件 Vol.4 - 複雑色のただの人 -
こんにちは。もしくはメリクリ、みなさん。ガラス工見習いLv.3だ。
ジョブチェンジを果たしてから、早2カ月弱、着々と経験値を積み上げ、練成できる物も「産業廃棄物」から「燃えないゴミ」程度までレベルアップした。順調である。
ただ一つ気になることがあるとすれば、炎との距離に比例して、手にある毛が徐々に焼けて無くなっていってることだ。
まゆ毛が消滅している日も近いのかもしれない。
ところで、犯罪を犯した者に対する慣用句に「盗人にも三分の理」というものがある。
「稼ぎのねぇあっしが子供と女房を食わしていくには、こうするしかなかったんでさぁ…」というような、要するに悪いことはしたけど同情できる部分もあるよね、って話である。
世の中、0か100か、白か黒かで判断できることなどそう多くはない。
濃度の差はあれどほとんどの出来事は灰色であり、その複雑な部分を見ずして判断することは思考停止と同じなのだが、残念ながら、人は興味のないことには頭を使わない。
数カ月前、ハマスがイスラエルに対して大規模なテロを仕掛け、今も争いが続いているが、これはテロを仕掛けたハマスが一方的に悪いのだろうか?
イスラエル側は何の非もないただの被害者なのだろうか?そこにはきっと、とても複雑で混沌とした灰色模様が描かれているのだろうが、興味のない人にとっては「ハマスやべー。テロこわー」といった感想程度にしか脳みそエネルギーは使われない。
そしてそれは、受刑者という存在にも同じことが言える。
自分もこの世界に転生するまでは、逮捕されるような者はその時点で真っ黒な存在だと思っていた。
その人の過去や人間性、事件の詳細やその真偽などなどに全く思考を巡らせることなく、誰かが何かの容疑で逮捕されたとニュースで目にすれば、そういう犯罪を犯した悪い奴なんだとしか思わなかった。当時の自分にとっては全く興味のない世界の話だったからだ。
だが、自分も当事者としてこの世界に来て、同じ当事者であるたくさんの住民たちと接するようになって、少し世界の見え方は変わったと思う。
この世界に暮らす住民たちは、皆「事件」というインクを自分のキャンバスに垂らしてきた。
中には、何度も何度もインクをぶち撒け、キャンバスを染め上げてしまっている人もいる。
だが、そのインクは決して真っ黒なものではなかった。
そしてそのキャンバスも様々な色や形の模様で満たされており、誰一人同じ人はいなかったし、黒や白だけなんて人もいなかった。
そんなもん、人間なんだから当たり前、少し考えればわかるだろ、と思うかもしれない。
けど、少なくとも少しも考えたことのなかった自分にはわからないことだった。
ちょっと黒の割合が多い人が多めかもしれないが、今まで考えたことがなかっただけで、外の人とここの人の違いというのはそれだけだった。
ただの人であり、ケームショに来たからといって人じゃなくなるわけではなかった。
考はエネルギーを使う。複雑なことを理解しようとすることは多大なエネルギーを必要とする。
それゆえ、関心のないことは考えないということが、限りあるエネルギーを効率よく使って生き残るための人間の生存戦略になった。
それが今の人間なので、考えないこと自体は悪いことではない。
だが、世の中にはパッと見、真っ白や真っ黒に見えるものにあふれているが、実際はそんな単純なものはほとんど存在しない。
であれば、同じ思考停止するにしてもパッと見の色で物事を決めつけてしまうのではなく、よく知らないものは全て複雑な色をしていることを前提に、「あれは〝複雑色〟」などとして色決めを保留しておくことが大事なのだと思う。
実際どんな色になっているかは、興味の出た時に知っていけばいい。これがケームショ世界に来て得た考え方の一つだ…。
ってさっきサンタさんがそう言えって言ってました!これが読まれる頃にはもう年は明けてると思うが、皆さまメリークリスマス。よいお年を!
令和5年12月25日
A366さん過去の投稿
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