流れていく人


今月は楽しかった。風のように想いの向くまま、いろんな人間と話して笑った。ともかく、お笑いが大好きな私にとっては、12月はM-1が放送されるということが、一番自分の楽しみに直結していたのだった。それに伴い、お笑いライブ(地下)にも何度も足を運ぶために東京に出向く。
人目を気にせず、思う存分ゲラゲラ腹を抱えながら笑えることは、私にとっての幸福だ。
お笑いライブでの土産話を姉にすると、困ったように眉間に皺を寄せながら笑う。ほんとうに意味不明。誰よ、その知らない芸人達は。
鬱の中の孤独を彷徨っている姉がほんの少し笑顔をみせるだけでも、姉はきっと希望の方を向くのではないか、と期待する。

そんな中、学生の頃からの友人(だった)からメールが、朝方5時きっかりに、定期的に届く。「あなたの態度に傷つきました。相手(私)のこともちゃんと考えられない人だなんて許せない」との内容が延々と続く。ちくり、ちくりと私に罪悪感を植え込もうとしているのかも分からない。
メールを開いてしばらくは私も動揺するのだが、そのまま何も見なかったように平然と無視をする。どんなに言葉を尽くしても、共依存的な関係に陥ってしまうと、お互い自分の傷のことにしか目がいかず、何も届かない。
切らなければいけない縁もあれば、ちゃんと繋がる縁もある。

クリスマスには嬉しいプレゼントが届いた。母親が粋に、リビングに飾ったクリスマスツリーの下にそのプレゼントを置いてくれていた。段ボールを開けると、ティーちゃんから直筆の手紙と、缶詰めのチョコレート、沢山のフレーバーのティーパックが入っていた。驚きながら手紙の内容を何度も反芻し、彼女の想いをなぞろうとする。今ハマっていることから、これから先のことについて思うことなど、彼女の近況を丁寧に読み進める。
途中「完全な孤独ではないから、孤独な時間を愉しめるのかな」という文が書いてあり、その言葉にハッとする。彼女が私の言葉を真正面から受け取ってくれていることが分かり、心の底から安心する。

それからは毎朝起きるとすぐに、ティーちゃんから送られてきたティーパックのお茶を飲み、甘いチョコレートを摘んだ。当たり前の日常に彼女の香りが充満する。何か落ち込むことがあれば、すかさず彼女の手紙を開き、彼女の文の余白部分に潜ろうとした。

そして私は、今月10万を超える値段の自転車を購入した。自転車好きの友人の話に乗り、一緒にカスタマイズに特化した自転車屋に足を運んだ勢いでのことだ。
そこでの店員との軽快なお喋りが楽しく、何時間も話し込んでしまう。「一応、試しに周りを自転車でこいでみてはどうですか」と提案され、自転車で近場を数分こぐ。12月初めの冷たい風が体中を吹き抜ける。
夕方の日が暮れ始める時間帯に、後ろから追い越してくる車にどぎまぎしながら、ヨロヨロと自転車の体勢を維持し、姿勢を前のめりにしながら進む。横目に沢山のビルや建物の灯りと、通勤帰りや学校帰りであろう人々が歩いていく姿が流れていく。全く知らない道を通り、見知らぬ人が生活していることを肌で感じると、何故だか心が満たされる気持ちになった。
サイクリングを終え、店に戻ると、一度ちゃんと真剣に考えてからでも遅くはないですよ、と店員に心配されるが、「自転車、買います!」と、その日に即決する。私の突然の選択に店員も若干困惑したようだった。(もちろん、分割払いですが)

家に帰ってからその旨を両親に伝える。父親は呆れたような顔をした。
「あんた、まんまとセールストークに丸め込まれたのね」と買い物依存傾向にある母親が共感し、嬉しそうな顔をしながら一緒に笑う。

年末に納車した。店員はフレンドリーで年齢が近いので、一緒に家まで自転車に乗って帰る約束をする。真夜中近い時間帯に、くだらない、内容の全く無い冗談みたいな話をしながら自転車を颯爽とこぐ。もう何年も前から知り合いのような仲を私達は演じる。凍えるほど冷たい風が体を突き抜けようとするが、それでも楽しさが上回る。

そんなこんなで遊びに耽っていたら、2021年が終わるらしい。
2022年の計画は何も決めてない。
ただ、今楽しめていることを、この先もできる限りに長く楽しめたらいいと思う。入念に計画するよりかは、適当に流されながら、沢山の思いがけない景色が見れたら満足だ。私はこの足で車輪を回し続けるだろう。大雑把で投げ遣りな性格の持ち主である私のことだから、これからも沢山の壁に打ち当たるだろう。色んな感情が湧いてきては、ひとつひとつ出来る限り丁寧に受け取って、自分の芯が凛と立つようになりたい。
どんな人とも深入りせず接し、風が心地よく吹くように優しい、景色に紛れ込むように目立たず生きている人々のことを大事にしたい。

ここで細やかに関わってくださっている方、今年はありがとうございました。また来年もよろしくお願いします。よいお年をお迎えください。

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