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IT導入と会計処理


今回は会計の話しです。 本コラムに何故会計のことを書こうかと思ったかと言うと、 つい最近私がコンサルティングを行っていたときのエピソードにさかのぼります。

 当社はIT戦略やシステム化構想の策定を行うコンサルティング会社ですが、 とある製造業のコンサルティングを行っていたときのことです。 海外工場も含めた基幹システムの入替えが必要だった同社に対し、 私はERPを中心にした構想を作りました 。投資対効果を算出し、開発パートナーの選定が終わろうとしていたときに、 ある経営層の方が言ったのです。

“すごい投資だね、来年赤字になってしまうから慎重に考えないとね。”

私はそのとき思ったのです。経営層には会計を知らない人もいる。 だからIT投資が会計上どう取り扱われるかも説明しないと通る稟議も通らないこともあると。 会計が苦手な経営層が企業の方はこのコラムは必見です。

おさえておかなければならないこと

 IT投資と会計との関係を説明するに当たって、 おさえておかなければならないことがいくつかあります。 まず投資の中身(内訳)と自社の決算期です。 そして投資が会計上の貸借対照表、損益計算書、 キャシュフローのどこにインパクトを与えるかを理解する必要があります。 前述した経営の方が来年赤字になると考えたのはIT投資が 全て損益に関わるものだと勘違いして赤字を心配したわけです。
まずは下記のとおり前提をおきます。

①基幹系システム入替え:投資額5億円
②プロジェクト期間:15ヶ月
③決算期:3月、開始時期2008年6月

上述したように投資の中身を分解します。 このプロジェクト(投資)の内訳は下記の例を用いることにします。

①ハードウェア:1億円
②ソフトウェアライセンス:1.5億円
③カスタマイズ等開発費:1.5億円
④ネットワーク機器:5000万円
⑤初年度保守費:2000万円
⑥その他管理費等:3000万円

上記のうち企業の資産となるものはどれでしょうか。

そう①②③④ですね。 その中でプロジェクトが開始される2008年6月に揃うものはどれでしょうか。
①②④です。カスタマイズ等の開発はプロジェクト期間である15ヶ月後に初めて資産となり、 それまでは仕掛かりとなるのです。

では資産になるとどうなるかと言うと、 会計上減価償却というものが行われ、 資産の価値を5年間(60ヶ月)かけて償却していきます。 つまり上記の①②④の資産合計は3億円ですから、 1ヶ月間の償却費は

3億÷60ヶ月の500万円

です。 2008年6月からプロジェクトが始まるわけですから、 本決算年度末である2009年3月までは9ヶ月間です。 ということは今年のPLでは9ヶ月×500万円の4500万円が 今年のインパクトとして現れます。 3億円の資産を本年度購入しても、 会計上ではその全てが今年の企業の損益上の成績になるわけではありません。

上記のような減価償却の分だけをPLに計上しますので IT投資をした年=赤字になるとは限らないのです。 そして③開発費は完成して初めて資産になりますので 本年度はPLにはヒットしないことになり、

1.5億円÷15ヶ月=1000万円/月(平均)

とすると 本決算年度の仕掛りは1000万円×9ヶ月=9000万円となります。 ⑤⑥は経費となりますので本年に5000万円計上するのが一般的です。 そして2009年9月より開発された仕掛りのソフトウェアが資産となり、 同じように減価償却が行われていきます。

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まとめましょう

5億円のIT投資が必要なプロジェクトがあります。
本年度5億円の損が出てしまう→×
で、正しくは

*本年PLに計上するべき費用
  本年度減価償却費 4500万円
  プロジェクト費用 5000万円

*BSに計上すべき費用
  資産  2億5500万円
  仕掛り 9000万円

となります。

 もうひとつ重要なのはCFです。 つまりいつお金を払うのか? ということは上記のPLとBSとは別に管理しなければなりません。 開発費用1.5億円を除く3.5億円を2008年度中に支払うのが一般的ですが、 ここでのポイントはその年度に支払いが発生してもそれはCFの話しであり、 企業会計上のIT投資を評価する場合にはBSとPLを合わせて見ることが重要です。

 IT経営を実現するための投資は、 経営者にとって時には決して低い投資額ではないと思います。 ただし会計の原則をちゃんと理解していれば、 投資した年度に財務諸表上の業績が極端に悪化するという懸念は払拭されるでしょう。 ここでは割愛しましたがIT投資には上記初期投資以外にも ランニングコストがありますので、忘れずにプロジェクトプランに入れましょう。

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