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プリキュアに選ばれなかった私は

この前誕生日を迎えて、22歳になった。
かっこよくて仕事が出来て大人な、大好きな漫画のキャラクターと同い歳になった。
ぼんやりテレビを眺めていると、今週も派手な髪色をした女の子たちが、超人的な力を使って敵と戦い、世界を救っていた。

何物でもない、何も成し遂げない私は、今日も無為に時間を持て余している。
その事に何故かゾッとした。




このよく分からない、意味の無い焦燥感を初めて感じたのはいつだっただろう。
11歳の誕生日を迎えた夜。フクロウが入学許可証を持って飛んでくることはなかった。産まれてこの方蛇と会話したことも、展示ガラスがいつの間にか消えたこともなかったので当たり前だ。
中学生の3年間。私の目の前に異世界からやってきたマスコットは姿を現さなかったし、幸いなことに変身してよく分からないモンスターと戦う必要も無かった。
高校1年生の始業式。後ろに座った子は中学からの見知った友人だったし、部活は科学部に入った。
高校2年生の時。遊園地に行っても変な薬は飲まされなかったし、そもそも大人顔負けの推理力は持ち合わせていなかった。

物語において、何者かに選ばれ、力を得て、物事を成す人は大抵学生なことが多い。特に非科学的な出来事なら尚更だ。
私の勝手な概算では、第1位に高校生、その次に中学生、そして大学生と小学生が続く。社会人が剣と魔法の世界に導かれる時は大抵、1度死んでいる。いわゆる転生だ。
社会通念に凝り固まった、物理法則を疑わない、この世で20年も生きた人間は、非科学的物事に順応するには1度人生をやり直さないと無理なのかもしれない。そういった異世界側の配慮なのかもしれない。

この世の中は物理法則で成り立っており、全ての物事は科学的に証明することが出来る。その事に感動し、傾倒して、化学者という道を選んだ。少しずつ世界の理を知り、そして知れば知るほど新しい謎に突き当たるこの、ルールに則った世界が好きだ。
その一方で、物語のような、漫画のような、小説のような、物理法則を無視した、あっと驚くような素晴らしい出来事が身近で起きることを、ずっと期待している。
知識があるから尚のこと、どこかの団長のように大々的には動けず、永遠に少しの期待を抱いたまま過ごしている。


幼少期から魔法少女は好きだったが、大学生になり、それがより顕著になった。YouTubeで変身シーンの切り抜きを眺め、キラキラした衣装を描き、可愛い女の子(もちろん男の子でも構わない)が戦う漫画を買い集めている。
大学4回生の今、私は変身コンパクトの代わりにシャーペンを持ち、異世界のマスコットの代わりに教授に導かれ、何者かになろうと必死に足掻いている。

タイムリミットまであと半年。プリキュアに選ばれなかった私は、未だに2次元のような出来事が起きることを、心の端で夢見ている。

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