神宮 一樹

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マガジン

  • スカラベテーブル

    • 17本

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Gray Spring

 昼過ぎの国道197号線、佐田岬メロディーライン。 左手には、梅の花に縁取られ、低く濃く広がる瀬戸内海。 まだまだ冬のつもりで厚手のダウンジャケットに身を包んでいたが、いつのまにか高くなった日差しに、たまらず左右のウィンドウを三分の一ほど開ける。  ふと、いやというほど通い慣れたこの道をあと何度走るかと考え、思わずハンドルを強く握りしめる。  にじんだ涙があふれないよう、深く息を吸い込む。  湿った春の気配で、胸がいっぱいになる。  三年前、縁もゆかりもない伊方町への移

    • Happy lostday

      わたしのお家はどこですか? どうも。すっかり迷子になっていた瀬戸内種です。 あっちへふらふら、こっちへふらふら、どちらへ向かったものかとしばらく途方に暮れておりましたが、今晩にわかに周りがはっきり見えるようになって、なんとかそれらしい道跡に戻ってくることが出来ました。 なぜ急にそんなことが起きたか?どうやら私は歳を取ったらしいのです。 なぜ歳を取ったことがわかるのか?これは簡単です。なにも一年中、日付を勘定している訳ではありません。ただ、一年の中で最もお天道様が長く空にい

      • 春、瀬戸内海種より

        ある朝 二日酔いに頭を抱えながら起き出す。水を飲まなくてはとキッチンへ行くと、 真っ白なテーブルの上には4つの可愛らしい球体。 原始種のスカラベは、残像の違う愛し方を求めて、まずこのテーブルを作った。 彼はいつでも「あってほしい」を「ある」ものにする、僕らの創造者。 続く北陸種は、どこか不気味な案内役。破壊者の先輩たちを従えて。 塔の最上階に導いておきながら、自身と一緒に瓦礫の中へと突き落とす。 若き西日本種は、好奇心のおもむくままにコロコロと。 彼女の穏やかな足し算は

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