蒔岡るね

小説のようなもの、詩のようなもの、短歌のようなものなどいわゆる創作を掲載していくつもり…

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小説のようなもの、詩のようなもの、短歌のようなものなどいわゆる創作を掲載していくつもりです。

最近の記事

[小説]アヒルの親たち⑥

[小説]アヒルの親たち①蒔岡るね (note.com) [小説]アヒルの親たち⑤|蒔岡るね (note.com) 「ねえ、おかあさん。もしもよ。もしもわたしがこのことをリークしようとしたら、わたしを殺す?」 自宅マンションの居間に戻った途端、それまで黙っていた|美月が訊ねた。視線の先には見慣れた義浩と知重子の写真があった。知重子はぷすっと吹き出しながら言った。 「殺しはしないけど、全力で阻止する。」 「何で。あの人はそんなに大切な人なの。」 「そうね。私にとっても、この国に

    • [小説]アヒルの親たち⑤

      [小説]アヒルの親たち①蒔岡るね (note.com) アヒルの親たち④|蒔岡るね (note.com) 「おかさんもあなたもおかしい。不倫しておいて悪びれもしないで涼しい顔している。あなた達に罪の意識はないの! 今までほったらかしておいて、何があなたの父親ですだ。笑わせないでよ。父親らしいこと、何もしないでおいて、いきなり出てきたって父親だなんて認められない!わたし奥さんに全部話してやる、あなた達がしてること。週刊誌にもリークしてやる。わたしは|醍醐克明の隠し子ですって。

      • [小説]アヒルの親たち④

        [小説]アヒルの親たち③蒔岡るね (note.com) 「それじゃなくて、この間買ったベージュのワンピースにしなさいよ。綺麗に見えるから。その上に白いジャケットを羽織ってね。」 その日は、仕事が終わったら外食する約束をしていたので、珍しく|知重子が美月の着替えに注文を付けて来た。知重子は顧客をたくさん抱えているので、飲食店経営者だけでも庶民的な居酒屋や定食屋から高級なレストランや料亭まで多岐に及んでいた。着るものを指摘するなら割といい店かな、と美月はちょっぴり期待した。

        • [小説]アヒルの親たち③

          [小説]アヒルの親たち①蒔岡るね (note.com) [小説]アヒルの親たち②|蒔岡るね (note.com) 翌日、|美月は義浩の名刺にあった携帯番号へ電話をかけ、前日の無礼を詫びた。義浩も取り乱したことを詫び、もう一度会って詳しく話を聞きたいと申し出た。退社後、美月は義浩の指定した都心にある小さな蕎麦屋の個室に向かった。 「母は私の父親について何も話してくれませんでした。おとうさんは死んだと聞かされていました。9歳の時、父の名前を教えてくれとせがんだら渡部義浩だと言

        [小説]アヒルの親たち⑥

          [小説]アヒルの親たち②

          [小説]アヒルの親たち①蒔岡るね (note.com) |美月はY駅の前に佇んでいた。再びここへ来ること自体ためらわれ、この駅へ降りようかと迷いながら数日経ってしまった。来てはみたものの、もしかすると今日は遅いのかもしれない。出張に行って帰って来ないのかもしれない。あるいはもう家に帰っているかもしれない。でも、あの人に会ってみたい。会って少しだけでも話してみたい。この日に会えなければ日を改めてまたここへ来るつもりではいる。ただ、なるべく早くその時が来てほしかった。 思い返

          [小説]アヒルの親たち②

          [小説]アヒルの親たち①

          駅の入口に着いた途端、美月は足がすくんでしまった。今到着した電車から降りてきた人々の中に、毎日のように見つめている顔があった。いや、一度も会ったことはないが、居間に置いてある写真立ての中に存在していた。 おとうさん…  おとうさん…   おとうさん…    おとうさん…     おとうさん… 背後からことばが頭に降りかかる。心臓が鼓動している音がはっきりと聞こえる。その男性は写真で見る父親よりもずいぶん老けてはいたが、やさしそうな面影は変わらない。ダークブラウンの夏用スー

          [小説]アヒルの親たち①

          夜半、目覚め あなたの匂いにつつまれ 至福の中にうごめく不安

          夜半、目覚め あなたの匂いにつつまれ 至福の中にうごめく不安

          白シャツに ラピスラズリの ペンダント 普段着にして これ、正装なり

          白シャツに ラピスラズリの ペンダント 普段着にして これ、正装なり

          ママでもない 社員でもない帰り道 枷が外れた心はばたく

          ママでもない 社員でもない帰り道 枷が外れた心はばたく

          [小説] 深夜の着信③(終)

          だが事態は我々が予想していたのとは違った形で、最悪な結果になった。 ツッチーのニュースが巷に蔓延したのは、それからさらに一月後、夏真っ盛りの頃だった。やはり、あの電話はツッチーの旦那で、夫婦間に何らかのトラブルを抱えていたようだ。そしてツッチーは…殺された…のではなく、殺してしまった。容疑者としてテレビやネットに流れてきた写真は、俺たちが知っている穏やかな女子学生の顔ではなく、張り詰めた表情をした痩せ衰えた女の顔だった。 その日、家に帰ると居間のソファーでアヤカは泣いていた

          [小説] 深夜の着信③(終)

          誕生日 お祝いメール 開くたび 有り難くあり 侘しくもあり

          誕生日 お祝いメール 開くたび 有り難くあり 侘しくもあり

          [小説]深夜の着信②

          それから二月ほどして、家に帰ると唐沢(カラサワ)奈美(ナミ)が遊びに来ていた。ナミはアヤカの親友で俺たちは大学の天文学サークルの仲間だった。 「よお!」 「おじゃましてま~す。」 アヤカが夕食の支度をしようと台所に立つと、ナミがすかさず、 「そういえば、あのあとちゃんと連絡とれた?」 と聞いてきた。なんのことだかサッパリわからず、ナミに詳しく話を聞いところ、俺が例の電話を受けた少し前に俺だと思われる男からナミに電話があり、次のような会話が交わされたらしい。 ―オオツカアヤカ

          [小説]深夜の着信②

          人混み嫌(や) 言いながらまた 来てしまう 懲りない我に ほほ笑む桜

          人混み嫌(や) 言いながらまた 来てしまう 懲りない我に ほほ笑む桜

          [小説] 深夜の着信①

          その日、アヤカと喧嘩して家を飛び出した。喧嘩の原因はなんだったのか覚えてないけど、たぶん他愛のないことだったと思う。テレビボードの上にあった財布とスマホを無造作にポケットに入れて、俺は駅前まで歩いて行き一軒のカフェに入った。深夜まで営業している店で酒も置いてあったが、コーヒーとマイルドセブンを頼んだ。 学生時代はまるで暇な時間を埋めるかのようにいつも煙草を吸っていたが、社会人になってからは不思議と吸いたいと思わなくなった。およそ3年ぶりに吸った煙草のおかげで胸の辺りに疼いて

          [小説] 深夜の着信①