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短い物語P&D『夜の集会』

熱帯夜のせいで男の目覚めは湿っていて重かった。
高速道路のSAで車内泊。
疲れも体の中で駐車したまま。
僅かに開けたウィンドウから車内に入ってきたのは、期待していた夜風ではなかった。

「どこへ行くかもう決めた?」

「まだ決めてない」

「わたしは新しい海の見える場所がいいな」

「戻ってこれるのかな?」

聞こえてきたのは、男女数人の話し声。
男は声の主が若者のグループだと思い込んだ。
シートに仰向けのまま、目を閉じて会話を盗み聞き。

「僕は帰らないつもり」

「わたしはまだ考え中」

「とりあえず新しい旅立ちなんだから盛大に祝っとこうよ」

騒がず早々に解散してくれよと、男は願う。

助手席側に人影は見えなかった。
声が聞こえてくるのは車の前方からだと分かった。
フロントガラスを見ると、ボンネットの上で動く影があった。
それは数匹の猫だった。
姿を見たくなった男は、静かに上半身を起こそうとした。
驚かせてはいけないと思った。
その時、スマフォのアラームが邪魔をした。
音を止めるのに手間取っていると、猫たちは一斉に散って行った。
鳴き声ひとつ聞けず、男は少しだけがっかりした。

車内から辺りを見回した男は、自分だけが駐車場に残っていることを知った。
レストランはすでに閉まり、うつむくような照明と直立不動の自販機だけが起きていた。
もう話し声は聞こえてこなかった。
車を降りて確かめたが、若者たちの姿はなかった。
駐車場を見渡すと車は一台も止まっていない。
誰もいない。
いつの間に去ったのだろう。
このんなに早く駐車場から外へ出られるだろうか。
姿を隠す場所すら無いのに。
男には不思議だった。
同時に背筋が寒くなる。

男は車に戻ると急ぐようにキーを回した。
エンジン音が少しだけ緊張を溶かし、汗となって吹き出した。
バックミラーを一瞬だけ確認。
ヘッドライトを点けると、前方に黒猫が一匹座っていた。
男はアクセルを踏む気になれず、猫を観察した。
そいつは夜空を見上げていた。
こっちを向いてくれることはなかった。
やがて何かに気づいたのか、花壇に駆け込んで見えなくなった。

今宵は満月。
男は気づいていない。 ~終わり

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【画】
□タイトル(Title):『夜の集会』
□作家名(Artist):環樹リョウ(RYO KANZYU)
□制作年:2010
□技法:ボールペン
□作品サイズ(縦×横):B4サイズ相当の画用紙を使用。
縦19cm × 横14cmの枠内に描画。

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