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【プライシング考察】ディズニーから学ぶ値上げのポイント

原材料等の高騰などを背景に企業では商品値上げの動きが相次いでいます。

実際、帝国データバンクの調査によると以下のような結果になっています。

帝国データバンクが実施した今後1年の値上げ動向についてのアンケート調査によると、32.7%の企業が「2021年10月~2022年3月の間にすでに値上げした」と回答

値上げ実施・予定企業は64%、個人消費関連は43%。「これまでの価格では利益を維持できなくなった」など悲鳴の声

一方で、「値上げすると競合に負けてしまう」「顧客が離れてしまう」などの理由で、「値上げしたいが、できない」と回答した企業は16.4%となっています。

こうした「値上げしたくてもできない」という企業がいる中で、ディズニーは値上げを繰り返しながら、顧客数を増やすことに成功しています。

本記事では、ディズニーの値上げから学べる価格戦略のポイントについて解説していきます。

★この記事を結論★

・値上げ=顧客離脱ではない
・顧客を維持し続けるためには、「小刻みな値上げ」「"顧客にとって"正当な値上げの理由」の2点が重要

ディズニーのチケット価格推移

以下はディズニーの1Dayパスポート(大人)の料金推移です。

出所:オリエンタルランドFactbook 2022

※FY21より変動価格制を導入。FY21,22の料金は期間内の最低価格と最高価格の平均値

上記のようにディズニーは2~3年ごとに値上げを行っており、1回あたり1.4%~7.8%(100~500円)の値上げを行っています。

FY20~21を除くと(FY20~21は変動価格制導入により12.7%、950円の値上げ)、比較的小刻みな値上げになっていますが、FY09~22で見ると価格が1.5倍(+2,850円)となっています。

ディズニーの来客数推移

2~3年に一度値上げを行い、長期で見ると価格が1.5倍になっているにも関わらず、値上げを小刻みにすることで、来客者は減るどころかむしろ増加傾向にあります。(直近はコロナ影響で入園者数は減少)

出所:オリエンタルランドFactbook 2022

"値上げを小刻みにする"というのは、「アンカリング」という第一印象の効果を利用した価格戦略の観点からも非常に有効だと言えます。
人は具体的な金額に関係なく、基準価格が指標となり、そこからの高低で実際に金額が高いか安いか判断することになります。

この基準価格(=アンカー)はディズニーの場合値上げ前の価格になるため、5800円からいきなり8650円に値上げすると「高い」と感じて支払い意欲を下げてしまうリスクが上がる一方で、5800円から6200円への小刻みに値上げすることで「高い」と感じることを防ぐことができます。

ミソは値上げと同時に常にアンカー自体も上がっていくということです。5800円がアンカーで6200円に値上げを行い、その後2~3年経過し次に6400円に値上げを行う場合、アンカーは5800円ではなく6200円になります。

このように小刻みに値上げを行っていくことはアンカーをズラしていくことであり、支払い意欲の低下を最小限に留める効果が期待できます。

ちなみにアンカリングについてはMITをはじめ数多くの学術検証も行われており、実務においても幅広く導入されている考え方になります。

行動経済学においては「人間は合理的な生き物ではない」とよく言われますが、最終的に同じ結果(同じ料金)であったとしても、そこに至るプロセスによって感じた方は大きく変わります。

ディズニーの場合は、結果的にチケット収入だけ見ても年々増収になっており、値上げ×顧客維持or増加=売上増という理想の形になっています。

出所:オリエンタルランド決算説明資料

ディズニーが発表している値上げの理由

もう一つ値上げにおいて価格戦略上重要なポイントがあります。それが「値上げの理由」です。

以下は2020年3月の値上げ発表時にオリエンタルランドのリリース内容での値上げ理由になります。

新施設のオープンエンターテイメントプログラムのリニューアル、ゲストの利便性を向上するITなどを導入し、テーマパークの価値向上に努めてまいりました。今後もこれらのハード面の取り組みに加え、人材力の強化によるホスピタリティ力とオペレーション力の向上などにより、パークに訪れた誰もが安心して楽しめるオンリーワンのテーマリゾートとして邁進してまいります。

「東京ディズニーランド®」「東京ディズニーシー®」
チケット価格の改定について

値上げをする上で重要なのは、"顧客にとって"正当な値上げ理由があることです。

「もっと利益を出したいから」などはもちろんのこと、「競合価格の価格が上がったから」、「原材料価格が上がったから」というのは、ドライではありますが顧客にとっては関係がない話です。

オリエンタルランドのリリースにも「新施設のオープンやエンターテイメントプログラムのリニューアル、ゲストの利便性を向上するITなどを導入」と記載されいますが、実際に新アトラクションの導入などで顧客価値の向上を常に行っています。

以下はディズニーの時系列のアトラクション導入の推移です。(オレンジ色:ディズニーランド、青色:ディズニーシー)

出所:オリエンタルランドFactbook 2022

値上げに先行して新アトラクションの導入を行い、「今後も値上げしたらよりよい体験を提供する」ということを想像させられると、値上げが受け入れられやすくなると考えられます。

一度「値上げした分、顧客価値が上がる」という約束が守られると、顧客と信頼関係ができるので、以降も値上げがしやすくなるという循環が回り始めます。

(ディズニー、以下D)新アトラクションを導入する

(顧客)パークで過ごす時間の満足度が上がる

(D)新アトラクションなどの導入のために再度値上げする

(顧客)前回同様に満足度が上がると考え、値上げを受け入れる

つまり、値上げの理由は常に「顧客価値のさらなる向上」であり、また顧客がその未来を信じられるような関係性を築いておく必要があります。

"顧客がその未来を信じられるような関係性を築いておく"ためには、そもそもとして値上げ前に先行して価値を向上させておく必要があります。

実際オリエンタルランドのリリースを見ても、「これまで〇〇により、価値向上を努めてきた。今後も・・・」となっています。

(再掲)
新施設のオープン
エンターテイメントプログラムのリニューアル、ゲストの利便性を向上するITなどを導入し、テーマパークの価値向上に努めてまいりました。今後もこれらのハード面の取り組みに加え、人材力の強化によるホスピタリティ力とオペレーション力の向上などにより、パークに訪れた誰もが安心して楽しめるオンリーワンのテーマリゾートとして邁進してまいります。

「東京ディズニーランド®」「東京ディズニーシー®」
チケット価格の改定について

まとめ

ディズニーの値上げから学べる価格戦略のポイントとして以下があげられます。

・値上げ=顧客離脱ではない
・顧客を維持し続けるためには、「小刻みな値上げ」「"顧客にとって"正当な値上げの理由」の2点が重要

「小刻みな値上げ」も「"顧客にとって"正当な値上げ理由」も一過性の価格改定には、適していません。

価格というのは一過性で変動させるものではなく、中長期という時間軸の中で事業戦略の重要なパーツとして検討して行く必要があります。

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